研究課題/領域番号 |
18H01552
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
井上 亮 東北大学, 情報科学研究科, 准教授 (60401303)
|
研究分担者 |
金森 亮 名古屋大学, 未来社会創造機構, 特任准教授 (40509171)
磯田 弦 東北大学, 理学研究科, 准教授 (70368009)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 点事象 / 集積領域検出 / スパースモデリング / 地域分析 / 地理空間データの可視化 / ポアソン点過程モデル |
研究実績の概要 |
本年度は,点事象の空間分布から,その集積地域を検出する新しい方法を構築・提案した.提案手法は,スパースモデリング手法の一つである,Minimax Concave Penalty (MCP)と呼ばれる関数を用いた正則化を導入することで,小地域単位で集計された点事象のカウントデータから,集積地域の検出を行うことができる.各小地域の共変量を説明変数としたポアソン点過程モデルを導入しているため,地域の異質性を考慮した集積検出が可能なモデルとなっている.推定するパラメータは,分析対象領域全域の共変量パラメータと,各地域独自に設定する集積性パラメータだが,パラメータの総数は小地域数を超えるため,正則化を行わないと一意な推定値が得られない問題である.各パラメータの値が0と異なることに対する正則化項に加えて,隣接する小地域の集積性パラメータの差について正則化項を設定することにより,隣接地域では同一の値を取りやすいという,空間的自己相関を考慮した推定が可能である. 既往研究では,L1正則化項を用いるLASSOを使用した集積地域検出方法が提案されているが,LASSO推定量はバイアスを持つ限界が知られている.一方,MCP関数による正則化では,特定の条件下でバイアスのない推定量が得られることが示されており,本提案手法は,バイアスを有さない推定量が得ることが期待される. これまでに,点事象の空間分布をシミュレーションしたデータを用いた初期検討により,LASSOに基づく既存手法よりも,MCPに基づく提案手法の方が適切なパラメータの推定,および,集積領域の検出が可能であることを確認した.また,実データへの適用に際して,地域的な差異を表す共変量を設定したポアソン点過程モデルを用いた集積地域の検出も実行可能である点を確認しており,提案した点事象集積領域検出手法が一定の有用性を有することが確認できている.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に記した通り,当該年度において,本研究課題の進展の鍵となる,新たな点事象集積領域の統計的検出方法について,スパースモデリング手法の一つであるMCP関数を利用した手法を構築・提案した. 現時点では,その集積領域の検出性能について十分な評価・分析は行えていないが,初期的な検討によると,既存手法よりも優れた性質を有していることが確認されている.また,実データを用いた分析を通した,地域分析手法としての有用性については,今後の検討事項であるが,提案手法は理論的には明快な方法であるため,十分な有用性を持つ分析手法であることが期待される.
|
今後の研究の推進方策 |
前述のように,現時点では,提案分析手法の性能に関して初期的な検討しかできていない.そのため,まずはこの性能評価が一番の検討項目となる. 点事象の様々な空間分布を仮想的に作成したシミュレーションデータを用いた,集積領域の検出力・誤検出率の評価や,パラメータ推定量の分布に基づくバイアスの有無の確認などを行う.なお,MCP関数による正則化を導入した目的関数は非凸な関数となる場合があることが知られているため,LASSOを用いた既存研究とは異なり,複数の局所解を有する問題となる.そのため,適切な推定結果を得るために,その計算手法も重要な検討事項となる.現在は,MCPに関する既往研究を参考に推定計算を行っているが,その性能評価も重要な課題である.計算量も既存手法よりも大きくなるため,実行可能な問題のサイズの確認も必要であり,それらの検討も行う.加えて,ハイパーパラメータ設定により異なる推定結果が得られることから,その中からよい推定結果を選ぶための情報量規準についても議論が必要である. 一方,地域分析への利用可能性を確認するため,様々な点事象データに対する適用を通した分析も今後行う計画である.研究分担者や研究協力者が専門とする,犯罪データ・産業立地データなどへの適用を通して,本提案手法による分析結果の有用性について評価を行う予定である.
|