研究課題/領域番号 |
18H01593
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
岡 泰資 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 准教授 (10240764)
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研究分担者 |
松山 賢 東京理科大学, 理工学研究科国際火災科学専攻, 教授 (10307704)
上矢 恭子 公立諏訪東京理科大学, 工学部, 助教 (10803356)
岡 秀行 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, その他部局等, 研究員 (80399518)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 煙流動予測 / 質量保存流速モデル / 火災リスク |
研究実績の概要 |
建物内における廊下あるいは地下街などの軸方向に細長い空間で発生した火災により誘起された熱気流の流動性状は,オフィスなどの執務空間の性状と異なる。 本研究では米国国立標準技術研究所が開発したFire Dynamics Simulator (Ver. 6.5.1)を用いて,断面積は一定条件のもと,矩形断面の形状を5種類変化させた数値実験を実施した。 既存研究に従い,軸方向に細長い空間を流動する熱気流の厚みを各測定位置における垂直分布の最高値の1/2となる点から天井までの距離として定義し整理したところ,温度あるいは速度とその由来により熱気流の厚みの挙動が異なる結果となった,そこで,アトリウム空間における煙層高さの定義手法を参考に,各垂直分布の変曲点から天井までの距離を熱気流の厚みと定義し,かつ矩形断面形状を考慮した新規の空間代表長さを導入することで,矩形断面形状に依存せずほぼ同じ無次元厚みを示すこと,理論的に導出される常流域の熱気流の厚みにも近い値となることを確認した。 ある矩形断面アスペクト比(縦/横=1.67)を有する空間内の対称面上に沿って長手軸方向へ異なる8点(x/H=1.73~6.67)での計算結果を用いて,天井からの距離を新規空間代表長さで,温度をその位置での最高温度でそれぞれ無次元化した無次元垂直温度分布は,火源からの距離に依存せずほぼ一致することを確認した。また,矩形断面形状は異なるが火源からの無次元距離が同一の位置(x/H(H/lb)1/3 =3.92)における無次元垂直温度分布も,断面形状に依存せずほぼ1つの分布形状となることが確認できた。なお速度分布も同様の結果となった。これらの無次元垂直分布をプロファイル法により定式化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
質量保存流速モデルにおける速度の推定手順は,大きく3つのステップで構成される。第1ステップは,実測値あるいは経験式に基づく速度を対象とする流れ場の各格子点に一次推定値としての設定,第2ステップは,廊下状空間内の柱あるいは垂れ壁などの障害物の影響を考慮するために代数モデルによる一次推定値の修正,第3ステップは,代数モデルにて修正した一次推定値が質量保存則を満足するように変分法を用いて最終速度を求める。質量保存流速モデルの建築火災安全工学分野へ導入を目指しており,上記ステップの第1ステップ及び第2ステップの構築が課題である。 本年度は上述の第1ステップに取り組んだ。矩形断面を有する廊下状空間を対象とするために,矩形断面積を一定として,高さと幅の比を5段階変化させた数値流体力学に基づく数値解析コード(Fire Dynamic Simulator)を用いた計算結果をもとに,矩形断面形状の変化を考慮した無次元速度分布式を導いたが,実験値との比較が十分ではない。この無次元速度分布式には,火源からの任意の位置における熱気流厚さと最高速度値が組み込まれているため,有次元に戻すためにはこれらの値を必要する。熱気流厚さについては,矩形断面形状の影響を考慮した代表長さを導入した形で定式化できた。しかし,最高速度値についてはさらなる検討が必要である。 最高温度値については,側壁および天井での熱伝達,常流領域の開始点とその位置での温度,矩形断面の縦横比を考慮した変数を組み込んだ形の温度減衰簡易予測式を導出したが,断面形状の異なる実験結果との比較から提案式の妥当性の検証が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
数値実験では,横長矩形断面から縦長矩形断面まで5種類の断面形状を変化させた空間を対象としたが,実験的には横長矩形断面の模型実験しか実施できていなかった。そこで,新たに作成した縦長矩形断面および天井面が馬蹄形の2種類の模型を用いた火災実験を実施することで,熱気流と壁及び側壁と接するぬれ長さと矩形断面に対する天井流が占める断面積を考慮した変数を組み込んだ,火源から任意の位置の最高温度上昇値を予測する簡易温度減衰式の妥当性を検証する。速度の最高値については,各位置のRichardson数を介して予測する手法を検討する。また,床面に沿って火源に向かって流れる気流内の垂直速度分布をプロファイル法あるいは一般化した指数関数で近似することで垂直速度分布式を導出するとともに,可視化画像流速計測法を用いた詳細な速度場測定と比較から,分布式の汎用性を検討する。これら天井から床面に向かっての垂直速度分布の結果を質量保存流速モデルにより障害物周りの流れ場を予測する際の,対象空間の流れ場の一次推定値として活用する。 横長矩形断面を有する模型を用いて,天井流が垂れ壁あるいは柱と衝突したときの流れの様子の可視化結果および数値解析結果を用いて,前方循環流,伴流等,各領域における障害物周りの渦の発達状況確認し,これら渦の発達状況を物体寸法等の幾何学的情報のみで表現可能な代数モデルを適用可能とするために,既存の代数モデルを修正する。 温度場および燃焼生成物の濃度場を予測するために,エネルギー方程式および化学種保存式を組み込むことで計算コードの拡張を図る。
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