研究課題/領域番号 |
18H01596
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小椋 大輔 京都大学, 工学研究科, 教授 (60283868)
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研究分担者 |
伊庭 千恵美 京都大学, 工学研究科, 准教授 (10462342)
安福 勝 近畿大学, 建築学部, 准教授 (20581739)
佐々木 淑美 東北芸術工科大学, 文化財保存修復研究センター, 研究員 (60637883)
石崎 武志 東北芸術工科大学, 文化財保存修復研究センター, 教授 (80212877)
脇谷 草一郎 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 主任研究員 (80416411)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 文化財 / 塩類風化 / メカニズム / 温湿度 / 歴史的煉瓦造建造物 / 磨崖仏 |
研究実績の概要 |
本研究は、水分供給を絶つことが難しく塩類風化が生じている屋外文化財を対象に、塩類風化メカニズムを明らかにし、それを抑制する方法論を構築し、予防的保存対策を開発することを目的としている。 歴史的建造物の析出塩と環境変化の年挙動を明らかにするため、環境モニタリング結果の分析と現地での塩類析出の画像調査の結果の関係の分析を行った。 塩溶液の移動特性の把握のため標準的な国産煉瓦を使用した吸水実験をガンマ線含水率計を用いて実施し、不飽和領域の拡散係数と毛管吸水係数を算定した。種々の濃度の塩化ナトリウム塩溶液および硫酸ナトリウム塩溶液を用いた実験結果から、すべての実験条件に関してバルク溶液の粘性・表面張力・密度変化を考慮した理論式より毛管吸水係数及び拡散係数が非常に小さくなることが明らかになった。またイオンクロマトグラフを用いたレンガのイオン交換容量の測定により、イオンの固定化が溶液の移動速度に影響することが示唆された。 塩析出に伴う水分移動特性の変化を把握する目的で塩溶液を含ませたレンガの乾燥過程をX線CTにより3次元撮影した。CT画像の画像解析により材料表面及び内部での析出量の分布の経時変化を算定した結果、材料内部での塩析出は大きな空隙から順に進行していることが確認でき、理論的な解釈と合致する結果が得られた。 また、材料からの脱塩を行い塩類風化抑制を行う方法の定量的評価を行うための予測手法の開発を行うことを目的とし、塩を含んだ溶液の移動理論について検討を行い、既往研究で示唆された脱塩時の浸透現象について、基材と脱塩材間の接触を良くするために用いられたカオリン粘土が大きく影響していることを明らかにした。さらに浸透現象に対して電磁気力の現象を考慮することの必要性を確認し、電磁気力による浸透現象を考慮した溶液の移動理論を、非平衡熱力学の基礎として構築を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画で予定したものとほぼ同様の研究成果が得られてきている。
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今後の研究の推進方策 |
表面電荷によるイオンの固定化、水分の移動性状の変化を考慮した熱水分イオン同時移動、析出解析理論を構築する。まずNMRでの測定結果を再現し、それによって表面電荷を有する煉瓦におけるイオン、水分輸送モデルの妥当性を検証する。そののち数値解析モデルを用いて、適切な塩析出量と液相、気相水分拡散係数の関係を検討し、X線CT画像から得られた乾燥過程の水分分布、塩分布の再現を行う。 また電磁気力による浸透現象を考慮した溶液の移動理論を、半透膜を介した場合の浸透移動理論を参考に、非平衡熱力学の基礎として構築し、それを用いて既往の理論では説明ができていない実測結果について再現を試みる。 さらに、歴史的建造物の環境変化と析出塩の関係をより詳細に調べるため、現地材料の物性値を考慮した壁体水分移動解析と室の熱水分解析を連成させ、その挙動のメカニズムを明らかにし、環境制御と修復材料により塩類風化を抑制する方法について検討を行う。
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