研究課題/領域番号 |
18H01599
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
岩田 利枝 東海大学, 工学部, 教授 (80270627)
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研究分担者 |
宗方 淳 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (80323517)
望月 悦子 千葉工業大学, 創造工学部, 教授 (80458629)
佐野 奈緒子 東京電機大学, 未来科学部, 研究員 (80376508)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 不快グレア / 輝度 / 知覚 / 窓面 / 眺望 / 心理影響 / 生理指標 / 評価構造 |
研究実績の概要 |
本研究は不快グレアを対象に「感覚」にとどまらず「知覚」の関与を明らかにすることを目的としており、初年度は従来用いられてきた4つのパラメータ以外の、環境側パラメータ、ヒト側パラメータについて、それぞれ独立して検討を行った。以下、それぞれの成果について示す。 窓の心理的機能の分類と眺望の影響:文献調査により窓の心理的機能について分析・検討し、心理的機能が環境評価に与える影響の構造イメージを仮定した。窓からの眺望がグレア評価に与える影響を輝度分布(量的)と眺望の種類(質的)に分けて実験を行い、輝度分布については輝度比と空間周波数、分布方向がグレア感に影響し、さらに眺望の種類およびその好感度によってグレア感が異なることを示した。また、窓からの眺望による開放感はグレア評価に直接影響するのではなく、空間の総合評価のようなより高次元なところに影響すると考えられた。 窓面輝度の心理・生理影響:高輝度の疑似窓を用いてグレア、室の印象と 生理応答の関係について検討を行った結果、窓面輝度はグレア評価だけでなく、モニタの視認性、空間の印象に影響すること、窓面を見る場合に視覚野の脳活動に影響を与える可能性を示した。 作業による影響:実際に窓から採光を行う実験空間において、作業中に感じる不快グレアの程度を作業別に調査し、作業時の視線方向の違い、視野内光環境の時刻変化が不快グレアに与える影響を検討した。その結果、作業内容によって目の順応状態は異なり、順応照度がグレア評価に影響を与える可能性を示した。 国際比較のための日本のオフィスデータの収集:120名の日本人オフィスワーカーを対象に、オフィスの自席における不快グレア評価と輝度分布画像の取得を行った。グレアの程度はヨーロッパのデータより高く、チリのデータより低い範囲にあった。既存のグレア指標は主観評価との相関係数が低く、実環境でのグレア予測は難しかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度なので、不快グレア評価に影響すると考えられるパラメータについて、各々研究を開始した。まず、実験設備、装置を整える準備段階が必要だったが、全体としては比較的順調に進み、予定通りの進捗となった。以下は研究を遂行したうえで明らかになった細かい課題について示す。 窓の心理的機能の分類と眺望の影響:窓の眺望の心理印象が不快グレアに及ぼす影響の検討は、東海大学、千葉大学それぞれで実験室実験を行って、「研究実績の概要」に示したような知見を得た。しかし、本検討で用いた眺望は一般的なオフィス街等で見られる風景を用いていたことが結果を制限していることも考えられたため、今後は眺望内容のさらなる吟味が必要である。 窓面輝度の心理・生理影響:実験は順調に進捗したが、作業に対する窓面輝度の影響は個人差も影響していることが推察されるため、現在もさらなる考察を進めている状況である。 作業による影響:作業中の光環境の変動や作業姿勢によって異なる目の順応状態が不快グレアに与える影響を明らかにする目的から、変動パターンの異なる条件について、更にデータを増やしていく必要がある。実際の窓との比較対象に設置した擬似窓の輝度が当初の計画ほど高く出なかった。今後、実際の窓の輝度調整、評価方法の改善など、いくつか修正が必要となった。 国際比較のための日本のオフィスデータの収集:実環境で現場実験を行うため、天候が心配されたが、3週間で十分なデータを取得でき、非常に順調に進んだ。国際比較のため、英語の質問用紙を和訳して使用したが、言語の違いによる評価の差が結果に影響していると考えられた。言語の問題は今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」に示した成果に加えて、「現在までの進捗状況」に示したような問題点も明らかになった。以下のような点に留意して今後の計画を推進する。 実験条件の検討:眺望印象が不快グレアに及ぼす影響の検討に関しては、2018年度は近隣建物を中心とした基本的な眺望パターンを検討した。このため眺望印象も平板なものに留まっていた。今後は一般的な知見に深化させるため、心理応答側のバリエーションを確保する必要がある。そこで新たなパターンの可能性も検討し、主観印象に特徴的な効果を持つ意味性や具象性あるいは知覚的効果を備えた眺望を用いることを計画する。 評価項目・測定指標の検討:眺望印象の研究では視線の移動の計測を行う。移動軌跡と停留時間分析から、輝度変化の抽出を行う。また、停留時間と画像解析結果を関連付け、これらによって印象評価を説明することも考える。 作業時の不快グレア評価実験では、擬似窓の輝度が実際の窓面輝度よりも低い可能性があったので、比較のため窓面輝度を下げて実験を行う必要が生じた。不快グレアを感じない域での実験になる可能性もある。グレア評価と明るさ評価との対応関係について明らかにした先行研究を参考に、評価項目に明るさ評価を追加する。 窓面輝度の心理・生理影響については、新たに血圧等の自律神経機能応答を測定指標に加え、グレアに影響する知覚的な差異を与える情報処理過程について、心理・生理応答の連関から推定していくことを試みる。
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