研究課題/領域番号 |
18H01629
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
川口 淳一郎 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 名誉教授 (10169691)
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研究分担者 |
八代 圭司 東北大学, 環境科学研究科, 准教授 (20323107)
川田 達也 東北大学, 環境科学研究科, 教授 (10271983)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 燃料電池 / 推進機関 / 亜酸化窒素 / ダイレクトメタノール燃料電池 / 固体酸化物燃料電池 / 酸素改質 / 水素キャリア / 宇宙機 |
研究実績の概要 |
(概要)宇宙機での利用を想定し、常温で液相を呈する(非凍結)酸化剤、燃料の組み合わせによる、推進、電源系複合の統合型機関のシステム化検討を実施してきた。当初のヒドラジン系の検討から、より安全性の高い無毒型の機関への検討を進め、昨年度までに亜酸化窒素(N2O)を酸化剤とし、エタノールを燃料とする構成での基礎試験を完了した。同機関は、亜酸化窒素について触媒を用いた改質器(起動後は自己発熱で運転され電力を要しない)を使用し、高分子交換膜による燃料電池形式であった。しかしシステム構成上、大きな発熱を伴いつつも排熱を行う矛盾があり、本年度から、亜酸化窒素の酸素改質を、SOFC 燃料電池へ供給させ、得られた熱を積極的に利用する形態へと転換する予備試験を実施した。なお、燃料たるエタノールは、水素キャリアとしては、ヒドラジンに劣ることはなく、バイオエタノールとして社会利用する上でも有力な運送方式を提供でき、課題と整合する。 (結果骨子)N2O/エタノール推進剤をSOFC燃料電池に使用することを想定し、酸化剤N2Oで安定したSOFC燃料電池反応が行えるか検討した。模擬燃料電池下で酸素発生量の確認を行った。800℃では特別な触媒を用いずとも安定した酸素分圧が得られた。N2O濃度が低濃度の場合には完全分解時の酸素分圧に近く、高濃度では約半分程度であるこが確認された。LSCF/GDC/LSCFの電気化学セルの作用極にN2O-N2を、対極に空気を導入した際のセルの電気化学インピーダンスを測定し、10%N2Oで0.06Ωcm2、100%N2Oで0.03Ωcm2であり、電極反応抵抗も十分小さいことから、N2Oを直接導入してもLSCFが空気極として十分に機能することを確認した。 (見解)電極反応抵抗も十分小さく、亜酸化窒素がSOFC用の酸素発生源として利用できる可能性が十分にあることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
無毒化に向けて昨年度までに実施してきた触媒による酸素改質と、固体高分子交換膜による電池の構成で、一応の機能確認が完了したものの、改質で発生する熱を結局捨ててしまう問題を解消する新たな課題を生じた。このため、本年度、無毒化と排熱から熱利用へという転換を試みることした。SOFC燃料電池において、亜酸化窒素を供給し、燃料側との反応熱を用いた連続酸素改質の性能確認が必要であった。本年、改質で得られる酸素分解率が十分に高いこと、またセルの電気化学インピーダンスが十分に小さいことが確認できたことから、SOFC燃料電池を構成する基本要件が確認できたといえる。これらから、概ね想定通りに計画を進められていると結論できる。
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今後の研究の推進方策 |
SOFC燃料電池としての基本性能にメドが得られたため、本年度は、実際に燃料との持続的な反応をおこさせた発電試験を予定している。課題は2点あると考えている。1つは運転に伴って発生する熱を持続的な酸素改質に結び付けることで、これにはセル周辺の熱設計が重要である。放熱ないし伝導で熱が失われると、改質温度の低下が生ずる。また、もう1点は、燃料側で発生しうる炭素の除去である。ある種の宿命であるが、改質で得られた酸素の一部を燃料側に供給することで、燃料側電極上の炭素を炭酸ガスとして取り除く方式にyついて、実験的な検討を進めていく。 触媒での分解をトリガーとした酸素改質器は、とくにSOFC燃料電池の起動に有効であり、継続して小型改質器にかかわる基礎試験を継続する。 これまで得られたパラメータから、宇宙機上でのシステム規模が想定できる。亜酸化窒素 100ml/minで運転する場合、50時間運転では、亜酸化窒素 0.6kg、エタノール 0.1kg のシステムとなり、7kWh の発電性能が得られる。これは深宇宙探査機での,12V 140W システムを 30分間/日、100日間運用する規模であって、実用的なシステムである。 水素キャリアとしては、エタノールでは、分子量44で水素6を輸送できるので水素キャリア能力は高い。宇宙機搭載用低温作動型推進系統合燃料電池の開発を継続しつつ、バイオエタノールとして利用する展開が期待され実用産業応用性も検討していく。
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