研究課題/領域番号 |
18H01630
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
小川 博之 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 教授 (60311172)
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研究分担者 |
長野 方星 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (10435810)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 宇宙機熱制御 / ループヒートパイプ / 超小型衛星 |
研究実績の概要 |
近年宇宙機のミッション高度化,小型化に伴い,熱制御要求が厳しくなっている。従来の受動型の熱制御のみでは高発熱密度や低電力要求への対応は不可能であり,新たな熱制御システムの創出が求められている。本研究は,高熱流束型マルチエバポレータ型ループヒートパイプ(LHP)を軸とした熱流体制御ネットワークを提案し,熱制御方式の技術革新を図る。申請者が独自に構築してきたマルチエバポレータ型LHPは温度均一性,自律熱制御性に優れるが,将来宇宙ミッションの厳しい熱要求に応えるためには,高い熱流束への対応,小型軽量化,ヒートスイッチ機能付加が必須である。そこで本研究では,高熱流束を実現する高性能な蒸発器多孔体界面を創成するとともに,深宇宙への輻射ラジエータの流路最適化を図るため,宇宙模擬環境での凝縮素過程を赤外および可視観察により解明する。また,シンプルな熱流動スイッチとして独創的なポーラスバルブを提案し,簡易な流動制御の実現可能性を検証する。これらの成果を融合し,高熱輸送性能と自律熱制御性を兼備した小型軽量な熱流体制御デバイスの技術基盤を確立する。 2019年度は,将来宇宙機の熱要求である高熱流束と高熱伝達率を実現するための取り組みを行った。具体的には,多孔体気液熱流動観察装置を用いて,蒸発器蒸気溝と蒸発熱伝達の関係を明らかにし,高熱流束を達成し得る蒸気溝チャネル構造,特性を同定した。また,その結果に基づく高熱流束LHPの設計,試作を行い,高い性能を実証することに成功した。また,昨年度構築した凝縮器観察装置を用いて,LHP凝縮素過程をハイスピードカメラ(可視域)で観察し,マルチエバポレータ型LHPの凝縮様式を調べた。さらに,小型・軽量化要求に厳しい超小型衛星を対象とした超小型マルチエバポレータ型LHPを提案,設計,試作し,宇宙模擬環境での特性評価を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では高熱流束型マルチエバポレータ型ループヒートパイプの宇宙実用化を最終ゴールとしており,技術課題として高熱流束化と凝縮素過程の理解,ならびに超小型衛星を見据えたデバイス提案が大きなポイントとなる。2019年度は高熱流束化に向けたパラメータ実験により高熱流束と高熱伝達率が期待できる蒸発器構造を提案できたこと,凝縮素過程を観察による高性能凝縮器設計指針が得られたこと,超小型衛星を対象とした超小型マルチエバポレータ型LHPを提案,性能実証できたことから,概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では,前述した目的を達成するために,多孔体内沸騰限界の解明に基づく高熱流束型LHPの実現,輻射冷却凝縮過程の解明に基づくラジエータの小型軽量化,熱流体制御ネットワークの検討を進める。 まず,高熱流束型LHPを実現するため,昨年度明らかになった最大熱流束,蒸発熱伝達係数の蒸気溝幅依存性,加熱面表面処理依存性の結果をもとに,最適となる蒸気溝幅と加熱面を選定する。多孔体気液熱流動観察装置を用いて,蒸発器蒸気溝と蒸発熱伝達の関係を明らかにするとともに,実際のLHP蒸発器に近い構成での性能実証を行う。 凝縮過程については,数種類の凝縮器構造に対して基本特性評価実験を実施し,各構造に対する凝縮熱伝達率を明らかにする。また,凝縮器内で層状分離が生じないための流量と流動様式の関係について実験と計算により明らかにする。 また,小型衛星搭載のための小型LHPおよびMLHPの改良設計,試作を行い,宇宙機に適用するための耐打上環境試験,凍結からの回復特性試験,熱真空試験を実施し,宇宙機搭載のための指針を得る。
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