本年度は、形状影響係数および波抵抗係数の評価方法を検討した。 1) 形状影響係数の検討 形状影響係数は自由表面影響のない条件の下での粘性抵抗から求める必要がある。実験的に求めることは難しいため、CFDによって自由表面の影響を無視した二重模型流れの精度評価を行った。支配方程式から粘性影響を除去したオイラー方程式によって非粘性流れを計算する手法を用いて二重模型流れを計算した場合、ポテンシャル流れではゼロになるはずの圧力抵抗が有意の値を持った。パネル法によるポテンシャル流れ計算法を開発し、CFD計算と同一の船体表面離散化によるポテンシャル流れ計算を試みた。その結果、オイラー方程式による圧力分布とポテンシャル流れによる圧力分布の差異を同定し、CFDにおいて高精度の境界条件を考慮する必要があることを明らかにした。 2) 造波抵抗の検討 ナビエ・ストークス方程式による粘性影響を考慮した自由表面流れおよび二重模型流れから求めた造波抵抗と、水槽試験から求めた造波抵抗の相互比較を行った。水槽試験における造波抵抗の算定は全抵抗から粘性抵抗の推定値を差し引いて求めているが、これをCFD解析結果と比較すると、粘性抵抗推定に用いる形状影響係数のレイノルズ数影響に加えて、自由表面流れにおける摩擦抵抗が二重模型流れの摩擦抵抗より大きいことから、水槽試験による造波抵抗には粘性抵抗成分が含まれていることが明らかになった。また、CFDにおける自由表面流れの全抵抗から二重模型流れの全抵抗を引いた抵抗は水槽試験によって推定された造波抵抗と同程度の値になる一方、自由表面流れと二重模型流れの圧力抵抗の差による抵抗成分は実験において計測波形から求めた波形造波抵抗とほぼ同じ値に鳴ることが示された。これらにより、船舶の抵抗成分分離に関する新たな知見が得られ、再構築した船舶抵抗理論の有用性が明らかになった。
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