研究課題/領域番号 |
18H01645
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研究機関 | 千歳科学技術大学 |
研究代表者 |
平井 悠司 千歳科学技術大学, 理工学部, 講師 (30598272)
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研究分担者 |
野方 靖行 一般財団法人電力中央研究所, 環境科学研究所, 上席研究員 (10371535)
室崎 喬之 旭川医科大学, 医学部, 助教 (40551693)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | フジツボ / 防汚 / 自己組織化単分子膜 / フィールド実験 |
研究実績の概要 |
本研究は工学系と生物系研究者の異分野連携によって海洋付着生物であるフジツボの付着メカニズム解明を通して抗付着材料を開発することを目的としており、平成30年度は下記の項目について研究を行った。 1) 表面官能基効果の評価:これまでの研究においてフジツボの付着期幼生であるキプリス幼生は親水性末端(OH基)で修飾した基板表面には著しく付着しづらいことが明らかとなっていた。そこで付着防止材料を開発するための指針としてどの程度のOH基割合が付着防止に必要かを調査した。その結果、概ねOH基の割合が8割を超えるときに付着防止効果が現れ、6割以下だとキプリス幼生は付着する傾向を示した。しかしOH基の割合が4割のときにも付着阻害効果が生じているようで、これまでに報告されていた材料表面の表面自由エネルギーだけでは説明できない結果が得られた。 2) キプリス幼生の認識サイズ評価:キプリス幼生はどの程度のサイズでOH基があると付着を嫌がるのかを調査し、材料開発の指針を得るとともにキプリス幼生が認識する大きさを解明することを目的とし、SAMのマイクロスケールパターン化基板の作製と解析を行った。SAMのマイクロスケールパターン化にはフォトマスクを利用した紫外オゾン処理によって、パターンが形成したかの確認には水分散微粒子を塗布することで、実際にパターン化できていることを確認した。 3) 微細構造効果の評価:耐候性を有するフッ素樹脂や、柔軟かつ耐久性を有する加硫ゴムの表面微細加工に成功し、さらにキプリス幼生を用いた毒性試験によって、材料に毒性がないことを確認した。 4) 抗付着材料の開発:北海道苫小牧市沿岸に5月から9月まで各種サンプルを浸漬した結果、室内実験でも良好な付着防止効果を示した架橋ポリビニルアルコール基板はフィールドでも3ヶ月間程度はきれいな表面を保っていることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の通り、本研究で進める研究項目1)~4)について申請時のスケジュール通りに進んでいるため、おおむね順調に進展していると考えられる。特に1) 表面官能基効果の評価においては、これまでに報告されていた材料表面の表面自由エネルギーだけでは説明できない結果が得られており、我々はキプリス幼生が付着時に分泌し、付着誘引作用もあるタンパク質(フットプリント)が基板表面に残りにくいときにキプリス幼生は付着を嫌がるのではないかと考え、今後はフットプリントの観察や、基板からの剥離し易さも測定し、抗付着効果のメカニズム解明も目指すことにした。さらに急遽試験的にフィールド実験を行えた架橋ポリビニルアルコール基板は良好な付着防止効果を示していたことから、抗付着材料の開発に向けて順調に成果が得られていると考えられる。その他、SAMのマイクロパターニングとその可視化(SAMがパターン化しているかどうかの確認)、様々な材料で微細構造を作製するための実験系の構築も平成30年度には完成しており、次年度も順調に研究を進められると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は各々の実験の下準備的な要素が強かったが、おおむねそれらの研究も終わったことから、次年度以降は加速度的に研究を進められると考えている。特に上述の付着誘引作用があるフットプリントの剥離性については、平成30年度末に水晶振動子マイクロバランス装置を研究室で再稼働させることに成功し、実際に試験できる状態にある。またSAMのマイクロパターニングにも成功していることから、キプリス幼生の認識サイズ効果だけでなく、電子顕微鏡観察と併せることで、どのような官能基表面だとフットプリントが残存しやすいのかなど、その残存状況を直接観察することもでき、付着防止効果のメカニズム解明が期待される。 研究項目3, 4)については、平成30年度のフィールド実験で効果を示した架橋ポリビニルアルコールや、すでに外壁塗装などで耐久性が証明されている架橋性フッ素樹脂、タイヤに代表される加硫ゴム表面などに熱インプリント法などを利用することで微細加工できることを確認しており、さらにその熱インプリントの際に使用する鋳型の作製についても自研究室でかなりの部分を進められる状況を構築したため、詳細に微細構造とキプリス幼生の付着性を議論できるようになった。これら微細構造と付着性に関する研究成果を2019年内にある程度まとめ、2020年の2月に苫小牧沿岸などにサンプルを沈め、実際にその効果を調査する予定である。さらに、流体抵抗低減などを含む微細構造に由来する機能についても評価を行い、付着防止効果だけでなく、複数の機能を有し環境に優しい材料の開発も目指す。 このように、基板表面の化学組成や微細構造を精密に制御することで付着防止効果のメカニズム解明や付着防止に必要な要素を抽出し、実際にフィールドに浸漬することで実用可能な付着防止材料の開発を同時に進めていく予定である。
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