研究課題/領域番号 |
18H01656
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
高安 美佐子 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (20296776)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | GPSデータ / ヒューマンモビリティ / 渋滞 / 輸送現象 / 数値シミュレーション / 統計物理モデル / 相転移現象 / 流動パターン |
研究実績の概要 |
本年度は、スマートフォンのアプリを通して入手されたGPSデータの解析の基盤となる解析プログラムを作成した。データは、時刻と経度と緯度、および、速度、がID番号ごとに並んだ形式であるが、プライバシー保護のために深夜の時間帯は欠損し、また、ID番号はランダムに付け替えられている。このような特性を踏まえて、早朝から深夜までのひとりひとりの移動履歴を取り出し、さらに、マクロな移動特性を観測するために、30分刻み、500m角の格子の上にマッピングするデータ処理を行った。このマクロ化した格子での平均化した速度場のパターンを、東京都市圏、名古屋都市圏、大阪都市圏に関して観測した。パターン同士の類似度を密度で重みづけしたハミング距離によって定義し、時間帯ごとのパターンをデンドログラムによって分類した。誤差を考慮して、朝の通勤時間帯、昼休みの時間帯、夕方の帰宅時間帯、に関して、統計物理学の手法に基づいて流れのパターンの特性を定量的に分析した。その結果、通勤時間帯では人の流れの流域サイズがベキ分布になる特性が、上記3つの都市圏で確認された。また、昼休みの時間帯には、流域サイズが指数分布で近似できることがわかり、人の流れの方向がほぼランダムであることがわかった。さらに、これらの特性を再現できるような数理モデルの構築を開始した。 また、本年度の途中で別の年度のGPSデータを新たに購入したが、データの書式がかなり異なっていたため、データに合わせて解析用のプログラムを作り変える必要があったため、多少、研究の遅れが発生した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
個別のIDに基づくデータからそれぞれの人のミクロな動きを取り出すプログラムは予定通りのスケジュールで作成した。また、それらのミクロデータから、時空間で格子化したマクロな空間へのマッピングのプログラムも、予定通りに作成し、データの解析を進めた。朝の通勤時間帯での流域サイズのベキ分布や昼休みの時間帯の指数分布の特性は、これまでに報告事例のない新発見であり、論文の作成を始めた。 また、新たに購入した別の年度のデータは、データの書式が変わっていたため、プログラムをデータに合わせて作り直す作業が余分に必要となり、その分、若干の作業の遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、朝の通勤時間帯での流域サイズがベキ分布で近似されるという現象の発見に焦点を当て、数理モデルを通して、この現象の解明を行い、論文としてまとめる作業を優先的に進める予定である。数理モデルとしては、流体モデルを想定しており、湧き出しと吸い込みと速度ポテンシャルに加えて、ランダムな速度のゆらぎの効果を組み合わせて、どの程度実際の現象の特性が再現できるかを確認する。都市圏のレベルのマクロなヒューマンモビリティを特徴づける研究は世界的にも最先端であり、さらに、鉄道や道路に対応して場所ごとに電導度を変化させる改良版モデルを想定し、研究を進める予定である。 また、マクロな流動パターンの分類の手法を洗練させ、一日ごとに、時間帯ごとの標準的な流動パターンとの比較を行い、異常なパターンになった特異日を抽出するアルゴリズムを開発する予定である。
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備考 |
イスラエルのバーイラン大学物理学科、シュロモ・ハブリン教授との共同研究として、本研究を推進しており、頻繁に情報交換をしながらこれまでの成果を論文にまとめる作業を進めている。
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