研究課題/領域番号 |
18H01657
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
前田 恭伸 静岡大学, 工学部, 教授 (60270980)
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研究分担者 |
淺野 敏久 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 教授 (00284125)
森 保文 国立研究開発法人国立環境研究所, 社会システム領域, 主席研究員 (30174387)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ボランティア / NPO / 情報システム / 環境活動 / ボランティア機会理論 |
研究実績の概要 |
本研究では3つのプログラムを実施する。第一の目的は、ボランティア機会理論の精緻化であるが、これは主に森が担当する。第二の目的は新しいボランティア募集システムの構築であるが、これは前田が担当する。第三の目的は、実際に活動しているNPOや市民グループの協力によりシステムの運用状況のデータを得、それを分析することであるが、主に淺野が担当する。 これまで上記の枠組みで研究を行ってきたが、本年度は新型コロナウイルス感染症の拡大のため、活動にボランティアを集めること自体が難しい状況となった。そこで本年度は主な活動としてふたつの調査を行った。 第一として、瀬戸内海の環境に関わる市民活動を促すためにどのような情報提供が望まれるのかという観点から、環境や市民活動に関する情報と参加の関係について、ウェブアンケート調査を行った。結果として、インターネットより新聞・雑誌、テレビ・ラジオから情報を得ている人が多く、市民活動への参加を促すのは、もともと当該活動を知っていたことや、友人・知人に誘われたことによる部分が大きく、SNS などの効果はさほど大きくないことが示された。この成果は水資源・環境研究に論文として発表した。 第二は、コロナ禍の市民活動・ボランティア活動への影響の調査である。全国の団体の活動への影響ならびに活動に参加する個々のボランティアへの影響等を調査した。その結果、NGO・NPOの活動は,コロナ禍によって大きな打撃を受けたこと、これを機会に,マスクの作成・配布などコロナ禍に関する活動を始める人々もみられたが,彼らは新たにボランティア活動を始めたのではなく,別の活動をしていた人々がコロナ禍対応の活動も始めていたことなどがわかった。それら結果をもとに日本リスク学会年次大会に企画セッションを提案し、発表した。前田はこの成果や関連業績から、今年度の日本リスク学会学会賞を受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、令和3年度の研究は次のように進める予定であった。 計画案は二つあった。 プランAは研究がスタートした時の前提に基づくものである。第一に、ボランティア参加要因の探索と理論の精緻化については、ふたつの研究を計画していた。これまでのアンケート調査を補完する教室レベルの実験と、オリンピック・パラリンピックのボランティアを対象とした調査である。 第二に、システムの拡充については、昨年度構築した新システムにTwitter等既存SNSとの連携機能などを実装し、その有効性を検証する。また、ボランティアが団体を立ち上げることを支援する仕掛けを導入する。 第三の、システムを用いた社会実験については、広島(太田川流域での生態系保全)等での活動を中心にシステムを展開し、ボランティアの活動への参加を促進させる社会実験を行う。具体的には賀茂台地エコミュージアムでのボランティアの獲得と交流に、このシステムを試用する。その過程で、次の段階としてこのようなシステムが社会的ツールとして成立する条件を探索する。 プランBは新型ウイルスの感染拡大に対応するものである。新型コロナウイルスの感染拡大が世界中の社会活動を制約している。人々が集団として密接に行動をすることが制限されている状況では、そもそも環境活動、社会活動のためにボランティアを集めること自体が難しい。そこでこの問題から派生した課題として、このようなパンデミック問題がボランティア活動にどのような影響をあたえるのかについて研究を進める。 実際にはプランBに基づく研究を行い、その成果を日本リスク学会年次大会で発表することができた。またそれは前田の学会賞受賞につながった。以上のことから当初の計画以上に進展したと言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では前述した3つの目的を達成するために、3つのプログラムを実施してきた。第一の目的は、ボランティア機会理論の精緻化であるが、そのために文献のレビュー、仮説の設定、仮説の検証を行った。これは主に森が担当している。第二の目的は新しいボランティア募集システムの構築であるが、そのためにはシステムの仕様のレビュー、システムアップデートのための体制の構築、アップデートの実装が必要である 。これは前田が担当である。第三の目的、システムの運用状況でのアンケートやシステム利用データの分析による課題と要望の獲得のためには 、社会実験のためのNPO・市民団体との交渉、社会実験の設計、社会実験の実施、データの検証といったプロセスを実施してきた。この部分は主に淺野が担当している。三者の活動は緊密に連携している。 ただ、昨年度はコロナ禍の中で、そもそもボランティア活動のような人と人とのふれあいを前提にした社会活動が難しい状況が続いた。そこで昨年は環境活動・市民活動と情報提供との関係についての調査・分析に重点を置き、「市民活動のためのボランティア募集とICT利用についての実態調査」「環境活動への市民参加を促すための情報提供」という2本の論文にまとめた。またこういった活動へのコロナ禍の影響についても調査し、日本リスク学会でひとつの企画セッションを提案し、その成果を発表した。この成果は「市民の社会参加へのコロナ禍の影響」という論文にまとめ受理された。 今年度は、これまでの成果を、ひとつの論文あるいは書籍にまとめる予定である。また、コロナ禍の状況が許せば、情報システムの新たな機能について、社会実験を行うことを検討している。
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