研究課題/領域番号 |
18H01674
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
若井 明彦 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (90292622)
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研究分担者 |
笹原 克夫 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 教授 (90391622)
N.P Bhandary 愛媛大学, 社会共創学部, 准教授 (10363251)
蔡 飛 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (20312902)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 繰返し降雨 / 斜面 / 崩壊 / 地すべり / クリープ |
研究実績の概要 |
斜面災害に関する従来の防災研究の多くは,“個々の短期的な降雨事象”に対する斜面内の地下水位上昇とそれに伴う斜面変動について着目したもので,先行する降雨履歴の有無を考慮することはあったとしても,ある期間の間に繰り返して作用する複数の降雨事象を,斜面変動の外因として包括的かつ直接的に考慮することはほとんどなかった。本課題研究では,降雨時→降雨後の静穏期→再降雨時など,繰返し降雨が斜面に与える影響と各時点での斜面変動の進行過程を明らかにするため,模型実験や要素試験などに基づいて,崩壊に至る前の早い段階で前兆的に観察されることのある変動現象,ならびに崩壊直前に見られる急速かつ自発的な変形の進展を,いずれも精度良く表現するための力学モデルを開発する。こうした研究の成果は,降雨が断続的に続く雨季の斜面災害防止の重要な手掛かりとなる警戒避難基準雨量の高度化に資するものである。 昨年度においては,過去に実施した大型斜面模型への繰り返し降雨実験における斜面の変位や変形の計測データの分析を試みた。また実験条件のコントロールが容易な定せん断応力載荷型せん断試験装置を製作した。当初予定の定せん断応力載荷型のせん断試験装置の製作は実施したが、装置の調整と予備実験には至らなかったが,過去の大型斜面模型を用いた実験のデータの分析ができたことは当初予定していなかった成果である。この他,ひずみ軟化特性と進行性破壊をモデル化した弾粘塑性構成則に基づくFEM解析手法を開発するための準備作業に着手した。これらは最終的に実験結果あるいは現地観測データを再現することを試みるものとなるため,斜面内部の力学機構が可視化され,繰返し降雨下で崩壊に至る限界降雨量の閾値を推定するのに必要な解析モデル上の項目についてまずは取りまとめ,今後の本格的なモデル構築ならびにシミュレーション手法の開発に備えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は,度重なる災害の際の調査活動等によって,災害現象の解明に関わる研究を専門分野とする本課題の研究代表者ならびに研究分担者いずれも予想外の時間的制約を受けることとなったが,当初計画に照らして最低限の進捗は確保できたと考えている。 具体的には,過去に実施した大型斜面模型への繰り返し降雨実験における斜面の変位や変形の計測データの分析を試み,実験条件のコントロールが容易な定せん断応力載荷型せん断試験装置を製作できたことは,当初予定していた定せん断応力載荷型のせん断試験装置の製作についての大きな進展である。逆に,過去の大型斜面模型を用いた実験のデータの分析ができたことは当初予定していなかった成果である。数値シミュレーションについても,ひずみ軟化特性と進行性破壊をモデル化した弾粘塑性構成則に基づくFEM解析手法を開発するための準備作業に着手できたことは当初の計画に近い進捗である。 斜面が繰返し降雨時に突発的に崩壊する機構は地質条件により大きく異なるため,本申請課題においては,その中でも典型的な二種類の地質の斜面をそれぞれ対象として整理することを計画していた。すなわち,主として表層崩壊を呈する砂質土の斜面の崩壊と,残留強度を発揮する地すべり粘土の進行性破壊がもたらす地すべり斜面の崩壊の二種類である。研究期間のうち早い段階で特に重要なのは,材料が砂質土であれ,粘性土であれ,応力状態の変化を伴わない条件下でどのように変形が進行しうるのかを実験・観察し,「地下水位上昇に伴って変位が増加する領域」が,その後の「地下水位の上昇に無関係で変位が増加する領域」の時間-変位関係に対してどのように影響を与えるのかを十分把握することである。こうした点についての研究進捗はおおむね順調と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に進捗した各研究作業項目に加えて,今年度は「地下水位上昇に伴って変位が増加する領域」が,その後の「地下水位の上昇に無関係で変位が増加する領域」の時間-変位関係に対してどのように影響を与えるのかを十分把握するため,特に地下水の浸透機構についての詳細な検討に着手することを目標とする。 まず,昨年度に作成した定せん断応力載荷型のせん断試験装置の調整等を終わらせ,様々な条件下での実験を行う。また今年度別途実施した小型斜面模型を用いた実験のデータも本課題の検討に使用が可能と思われるので,その分析を行うことを試みる。この他,土柱の簡易浸透実験に供するための実験装置の製作などに着手するとともに,装置の製作の進捗状況によるが,可能であれば土柱の浸透実験などを開始する。また,こうした検討結果の機構解釈をより確実なものとするため,必要に応じて,実際の斜面における変動現象等を観察することを検討する。以上の実験的検討と並行して,今年度はさらにひずみ軟化特性と進行性破壊をモデル化した弾粘塑性構成則に基づくFEM解析手法の開発を推進する。具体的な斜面変動の事例の再現解析などを通じて,モデルと計算アルゴリズムの双方の改良を進め,課題研究の最終的な目標である繰返し降雨条件下での斜面の変形状況を再現するための解析コードの開発を目指す。また,通常は2次クリープどまりであったこうした弾粘塑性解析の手法を3次クリープまで含めるための数理モデル化上の工夫などについても考察を進めることを目指す。 本年度の最後においては,これら各研究項目の進捗を各研究分担者間で情報交換し,次年度に向けた研究計画の検討を実施する。
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