研究課題
電子状態において片側のバンドが金属的なのに対して、反対側のバンドが半導体的な(ハーフメタル型電子状態)ホイスラー合金は、フェルミ面近傍におけるスピン偏極率が高く、スピントロニクス分野におけるデバイスの強磁性材料として非常に注目されている。研究代表者はかねてから、①スピン偏極率が高いこと、②キュリー温度が高いこと、③相安定性が高いこと、を実用材料として必要な条件と位置づけ、研究を進めてきた。理論計算において実に様々な物質が提案されているが、実際に目的とする結晶構造を有し、理想的な原子配列を制御出来るような物質はほんの一握りである。本研究では、候補物質の単結晶バルク試料を育成し、原子配列等を制御したうえで、直接的・間接的物性測定より、ハーフメタル型電子状態を「本当に」有しているかを検証することを目的としている。本年度(平成30年度)は主に、以下の二つの研究を計画して研究を行った。1. Co2MnSi単結晶についてSPring-8のBL07LDUにて磁場中共鳴非弾性X線散乱の円偏光依存性を調べ、得られたスペクトルについて、ハーフメタル型電子状態の部分状態密度との関連性を調べる。2. 異方性磁気抵抗(AMR)の符号が、理論の立場より提案されているように、ハーフメタル型電子状態の有無の必要条件となり得るのか、検証を行う。さらには、AMRの結晶方位依存性を調べ、バンド構造との比較・検討を行う。上記の[1]については、現在、より詳細な解析を行うとともに、理論計算によるスペクトルの結果との比較検討を待っているところである。また、[2]については、測定に必要な試料回転機構を既存装置に設置したところであり、調整等が完了し、測定用の試料を準備中である。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、ハーフメタル型の電子状態を有すると理論的に予測されている、ホイスラー型合金(Co2MnSiやMn2VAlなど)の単結晶試料を育成し、その試料の原子配列を完全に制御した上で、磁場中共鳴非弾性X線散乱(RIXS)の円偏光依存性(MCD)よりフェルミ面近傍のスピン偏極電子状態を調べ、ハーフメタル型電子状態の直接観測を行うことを目的としている。平成30年度は、Co2MnSiについてSPring-8のBL07LSUに設置されている、超高分解能軟X線発光分光器を用いてRIXS実験を行った。CoとMnのL3端近傍の入射エネルギーにて、円偏光によるRIXSスペクトルを観測したところ、両方の元素について明瞭な磁気円二色性(XCD)が確認された。RIXS-MCDの観測される符号はCoとMnで同じ方向であり、CoとMnの磁気モーメントが強磁性的に結合していることの証である。より詳細な解析を行うとともに、理論計算によるスペクトルの結果との比較検討を待っているところである。以前に、RIXS-MCDを観測したMn2VAlについては解析と理論計算が終了し、MnのL3端RIXS-MCDにおいて明瞭に観測された二つのピークは、ハーフメタル型電子状態を有すると仮定した場合の、mj = -3/2からの励起に伴うMCDの成分が支配的であることが分かり、スペクトルの性状も計算スペクトルによってよく再現されることが分かった。これらの結果は、国内・国外の会議にて発表を行い、論文も受理され、Physical Review B学術誌に掲載された。また、本年度は既存の装置に、異方性磁気抵抗(AMR)を調べるために必要な、試料回転機構を導入した。既に、試運転と予備実験は終了しており、今後、単結晶試料を用いて系統的にAMRの符号を調べることを計画している。以上のように、研究は計画通り非常に順調に進んでいる。
初年度である平成30年度にSPring-8のBL07LSUにて行ったRIXS測定は、高分解の明瞭なスペクトルが得られ、理論計算結果と比較検討する上で十分な精度のデータが得られた。以前に行った、Mn2VAl合金の場合は、MnのL3端においてのみ比較的大きなRIXS-MCDの強度が観測されたのに対し、Co2MnSiにおいてはCoとMnの両方のL3端において大きなRIXS-MCD成分が存在し、しかもどちらにおいても2重構造が観測された。計算スペクトルと比較・検討を行い、CoとMnにおけるフェルミ面近傍のギャップ幅の違いが議論できるのか、また、Mn2VAlの場合と異なり、Co2MnSiにおいてはギャップがダウンスピンバンド側に形成されていることを検証できるのか否か、検討を進めていく。さらに、今年度もBL07LSUの研究課題が採択され、ビームタイムが確保されている。そこでは、Co2FeSiのRIXS測定を行うことを予定しており、さらにMn2VAlやCo2MnSiとの電子状態の違いが反映されたスペクトルが得られるのかどうか、実験を遂行することを計画している。一方、ハーフメタル性のスクリーニングとなることが理論の立場で提唱されている、異方性磁気抵抗(AMR)を測定するために、試料回転機構の設置が完了したところである。既に単結晶の育成が成功した、Mn2VAl, Co2MnSi, Co2FeSi, Co2MnGe等の試料を用いて、それぞれの試料につき3種の結晶方位(<100>, <110>, <111>)について一挙に測定を行い、AMRを系統的に調べていくことを計画している。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件) 備考 (1件)
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