研究課題
共鳴非弾性X線散乱(RIXS)は、入射X線を吸収して内殻電子が共鳴的に励起され、X線を放射しつつ緩和する現象であり、入射エネルギーを選ぶことによって特定の元素の電子を励起させることができ、フェルミ面近傍の部分状態密度を反映するようなスペクトルが得られる。さらには、強磁性体では電子状態が交換分裂をしているため、入射X線を円偏光させた場合、電子の遷移確率がアップ・ダウンスピンバンドとで異なり、それぞれのスペクトル強度において差分が生じる。よって、ハーフメタルであれば、フェルミ面直上の非占有状態から占有状態、そして終状態への緩和において、片側のバンドからだけに寄るスペクトルが得られることになる。本年度は、前年度の研究にて得られていた、Co2MnSiのCoとMnのL端におけるRIXSスペクトルについて理論計算を行い、得られた実験結果と比較検討を行った。それにより、Mn2VAlではアップスピンバンドにギャップが存在していたのに対し、Co2MnSiではダウンスピンバンドにギャップが存在するが、その違いをRIXSの磁気円二色性(MCD)スペクトルの解析より、分別出来ることが明らかになった。また、CoよりもMnのギャップ幅が広いことも検出でき、3d電子軌道の占有・非占有状態における様々な情報が引き出されることが分かった。さらに、本年度はCo2FeSi単結晶試料のFeのL端におけるRIXS-MCDのスペクトルを実験で得ることが出来た。弾性散乱のMCDピークのごく近傍に特徴的なスペクトルが観測され、フェルミ面近傍に存在する大きなFeの3dバンドに由来することが理論計算との比較により明らかになった。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究課題では、ハーフメタル型の電子状態を有すると理論的に予測されている、ホイスラー型合金(Mn2VAl, Co2MnSiやCo2FeSi)の単結晶試料を育成し、その試料の原子配列を完全に制御した上で、磁場中共鳴非弾性X線散乱(RIXS)の円偏光依存性(MCD)よりフェルミ面近傍のスピン偏極電子状態を調べ、ハーフメタル型電子状態の直接観測を行うことを目的としている。2019年度は、2018年度に行ったCo2MnSiのRIXSスペクトルの詳細な解析を行い、理論スペクトルと比較検討を行う事で、占有・非占有状態の3d電子状態に関する様々は情報が得られ、国内の学会で発表を行った。特に、2p内殻の各順位からの励起に寄るRIXS-MCD理論スペクトルをもとに、ハーフメタル性の特徴となるフェルミ面近傍のギャップがアップ・ダウンスピンバンドのどちらに形成されるかを分別できるのは、全く新しい展開であり、論文執筆の準備を進めている。また、Co2FeSiのFeのL端におけるRIXS-MCDの実験も成功し、理論スペクトルとの比較検討を行った。フェルミ面にかかる大きな3d軌道由来のスペクトルの特徴が見事に反映されており、この成果も国内の学会にて発表を行った。以上のように、RIXSに関する実験は当初の予定以上に進んでいる状況である。しかしながら、磁気抵抗の角度依存性の符号とハーフメタル性を照らし合わせて議論を行う研究は、装置の不具合によりあまり進んでいなかったが、装置が復調したことによりデータが得られつつある。
2020年度が本研究課題の最終年度となるが、引き続き共鳴非弾性X線散乱測定の実験を進めていくことを計画している。本年度は既にビームタイムが確保されており、Co2FeSiについてFeのL端のRIXS測定を行う予定である。これで、Mn2VAl, Co2MnSi, Co2FeSiのデータが一通り揃うことになるが、ホイスラー合金のハーフメタル型電子状態の研究にRIXSが非常に有効であることを世界に発信するためにも、ビームタイムの申請を毎度行い、関連研究を続けていくことが重要である。単結晶は他にもCo2(Cr,Fe)Ga, Mn2CoGa, Co2MnGe, Co2MnGaが既に育成に成功していることから、タイムが確保され次第、順次測定を進めていく。磁気抵抗の角度依存性を調べる実験は装置の不具合で滞っていたが、装置が復調したことで、今後手元の単結晶試料について一挙に実験に取り掛かる予定である。系統的研究を行い、ハーフメタル性の結晶方位依存性に関する議論が大幅に進展するものと期待される。
すべて 2020 2019 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 5件、 招待講演 3件) 図書 (1件)
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