研究課題/領域番号 |
18H01693
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
君塚 肇 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (60467511)
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研究分担者 |
志賀 基之 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, システム計算科学センター, 研究主幹 (40370407)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 水素吸蔵・透過 / 量子効果 / 自由エネルギー地形 / 第一原理経路積分解析 / レアイベント解析 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,プロトニクス分野の高度化のための研究開発に貢献するため,原子核と電子の双方の量子効果に由来する水素の特異な挙動を予測的かつ定量的に評価するための新規の量子論的モデリング法を構築する.これにより,合金系および錯体化合物系等の水素エネルギー材料の典型モデルにおける水素の吸着,拡散,捕捉,水素化物形成等の反応過程のキネティクスに関する詳細を獲得し,水素特有の量子的振る舞いが当該材料に与える影響を明確にする.本年度は,以下に挙げる課題に取り組み成果を得た. (a) 第一原理経路積分レアイベント解析法の構築 経路積分計算と電子状態計算を連結した上で,遷移状態・活性化障壁を評価するレアイベント解析法と組み合わせることにより,原子核と電子の量子効果を取り入れた水素挙動解析のための新規の量子論的モデリング手法(即ち,第一原理経路積分レアイベント解析法)のプロトタイプを構築した.これにより,標準的な電子状態計算(密度汎関数理論)で取り扱うことが出来る種々の材料中の多様な水素の反応・移動過程に関する自由エネルギー地形を評価するための枠組みを実現した. (b) 水素エネルギー材料中の水素の反応・移動過程のキネティクスの解明 構築した手法を活用して,水素エネルギー材料における主要なモデル系の(1)材料表面・界面における水素の吸着・固溶過程および(2)バルク中への侵入・拡散過程における自由エネルギー地形を第一原理的に評価し,水素吸蔵・透過性能を律速する因子の詳細を解析した.本年度は,水素吸蔵・透過材料のモデル系として主要な金属水素化物を取り扱い,水素原子の表面吸着,粒界偏析,拡散における同位体効果等を解析し,当該系における水素の存在状態の量子描像を明らかにした.更に,超多量空孔構造内の水素原子の捕捉状態と構造安定性の機構を解明することに取り組んだ.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本モデリング手法の根幹部分である経路積分計算と電子状態計算を連結した解析を実現することができ,更に実際の解析上重要となるレアイベント解析の枠組みの構築に対して目途を付けることができたことから、おおむね順調に進展していると考える.また,研究を遂行するにあたり,「第一原理経路積分解析用並列計算機」(大阪大学)を導入し,研究基盤を整備した. 水素挙動のレアイベント解析に際して,研究分担者である志賀を含む関連分野の研究者間で研究会(2018年12月,2019年1月)を実施し,今後展開を進めるべき手法に関して計算分子科学の立場から議論・検討した.また,国内の関連学協会において積極的に発表・議論することで情報発信を行うなど,研究成果の広報活動を展開した.
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今後の研究の推進方策 |
本年度は目標とするモデリング手法の要素技術を首尾よく構築し,その妥当性を確認することが出来た.今後は得られた技術を有機的に活用することで,より実際的な課題における水素の反応・移動過程のキネティクスを評価できるように発展させたい.次年度は以下に挙げる課題に取り組むことを予定している. (a)第一原理経路積分レアイベント解析法の構築 構築した手法に関して,材料内水素の協調的運動が支配的となる場合など比較的複雑な反応素過程に対しても適用範囲を広げるために,状態サンプリング法の高度化および効率化に取り組む.具体的には,量子ゆらぎと熱ゆらぎの双方を考慮した反応経路探索手法,ならびに拘束下サンプリングにおける平均力に基づいた断熱自由エネルギーダイナミクス法の構築と動作検証を実施する. (b)水素エネルギー材料中の水素の反応・移動過程のキネティクスの解明 前年度に構築した手法を活用して,水素吸蔵・透過材料および触媒材料のプロトタイプとして注目される金属・合金系を対象に,水素溶解・拡散の基本メカニズムを明らかにする.また,強ひずみ加工等による微細粒化が水素の溶解・拡散性に与える影響を明らかにするため,金属中の粒界における水素の振る舞いの解明に取り組む.これらを通じて,水素吸着・拡散・脱離過程において量子効果が顕在化する機構・条件等に関して普遍的な理解を得ることを目指す.加えて,高密度水素化物として注目される錯体水素化物(ホウ素系,アミド系)を対象とし,多様な原子構造(構造相転移)の解明と形成時の前駆体の探索に取り組む.ここで,錯イオン配向等の分子間相互作用を適切に記述するには汎関数の選定・補正が必要となることから,基礎的な事例研究を設定する.
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