研究実績の概要 |
本研究では,高性能熱電材料を開発するための革新的技術として,元素置換により創製される不純物準位を用いた電子物性の最適化方法を確立する.これにより,申請者が提案し,かつ,その有効性を実験的に検証してきた熱電材料設計指針を高度化することを目的としている.さらに,非調和格子振動により1Wm-1K-1以下の著しく小さな格子熱伝導度を示す材料群に対して,高度化した熱電材料設計指針を適用することで,多結晶状態でZT > 4.0を示す新しい熱電材料を創製することを目指している. 上記の研究を推進する上で,対象材料としてSi-Ge系ナノ結晶バルク材料と,(Ag,Cu)2(S,Se,Te)系材料を選択した.前者は,ナノ構造により1Wm-1K-1 程度の熱伝導度を示す.さらに,熱電材料として比較的広いエネルギーギャップを有することから,電子構造の予測と変調を比較的容易に行うことができる.後者については,非調和格子振動の影響で,0.5Wm-1K-1 の格子熱伝導度を示し,かつ.半導体的に電子構造を有している. 前者に対して.第一原理計算(バンド計算とクラスター計算)を駆使することで,n型材料ではFeを,p型材料ではNi, Zn, Auを導入することが望ましいことを見出した.それぞれに対して適切な不純物元素濃度を電子構造計算から特定した後に,その量のFeあるいはAuを含む材料を作製した.その結果,n型材料でZT = 3.7 を,p型材料で ZT = 1.8 を得るに至った.また,後者に関しては,ZT = 2.5が得られる可能性を示した. 次に,(Ag,Cu)2(S,Se,Te)系材料であるが,カルコゲンサイトの組成を調整することで,100℃以下の低温で,容易に ZT = 1.1を得ることに成功した.元素置換による電子構造の制御と,キャリア濃度の最適化により,さらなる高性能化が見込まれる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に示した通り,本研究を提案した際に想定していた方法で,着実に高性能熱電材料を開発できている.特に,Si-Ge系材料において,世界最高性能のバルク熱電材料を開発したことで,目的をほぼ達成できたと考える.さらに,事例を増やすために(Ag,Cu)2(S,Se,Te)系材料での高性能化も進めている. これらの研究から得られた結果から,『不純物準位による電子構造改質を用いた電子物性制御』が極めて有効な熱電材料開発手法であることを示し,かつ,実用化に著しく近い材料を創製できたと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
「不純物準位による電子構造改質を用いた電子物性制御手法」が極めて有効な熱電材料開発手法であることを,更に明確に示す為には,より多くの材料系で高性能熱電材料を創製することが望ましい.これまでの研究において,Si-Ge系材料,Mn-Si系材料,(Ag,Cu)2(S,Se,Te)系材料で良い成果を得ることができていることから,現在,上述した材料系以外(Cr-Si系など)でも,高性能熱電材料を創製する研究を展開している.実用化の観点からは,より安価で,より環境に優しい系で,実用化に耐える熱電材料を創製することが求められることから,これらの条件も具備する高性能熱電材料の創製を目標とする.さらに,より需要の多い『100℃以下の廃熱を利用できる高性能材料』の創製も目指す. 上記の目的を達成する為に,現在,フォノン分散,フォノン散乱の解析を進めている.3フォノンプロセスにおけるウムクラップ散乱の確率を上げる材料設計指針を構築し,それも利用することを検討している.特に,フォノンによる熱伝導の波長依存性および自由行程依存性を解析することが重要である.超格子薄膜などの作製と時間領域サーモリフレクタンス報を利用した熱伝導度の測定や,第一原理計算と3フォノンプロセス計算の併用などにより,上記の解析が可能になる.実際に,Fe2VAl軽重格子薄膜を作製し,界面散乱効果とフォノン分散変調による散乱確率増大効果を分離して解析することに成功している.これらの研究手法を駆使することで,既存材料の性能を凌駕する複数の材料を創製する計画である.
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