研究課題/領域番号 |
18H01705
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
脇谷 尚樹 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (40251623)
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研究分担者 |
川口 昂彦 静岡大学, 工学部, 助教 (30776480)
鈴木 久男 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (70154573)
坂元 尚紀 静岡大学, 電子工学研究所, 准教授 (80451996)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 磁場印加PLD / 相分離 / スピノーダル分解 / エピタキシャル / 誘電体 / 磁性体 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、(1)薄膜のエピタキシャル成長時に生じるスピノーダル分解の動力学の解明、(2)組成波の伝搬方向の複合化による微構造制御と新機能の発現、の2点であり、これらの目的を達成するための研究項目は、(a)時間分解型ダイナミックオーロラPLDの開発による、薄膜のエピタキシャル成長のその場観察を通した動力学の解明、(b)スピノーダル分解時の拡散に伴う化学ポテンシャル計算による動力学の解明、(c)複合組成薄膜を用いた組成波の伝搬方向の複合化による微構造制御と新機能の発現、の3項目であるが、平成30年度は(a)と(c)に取り組んだ。 (a)については、電磁石を搭載した新型のダイナミックオーロラPLD装置を開発した。この装置に搭載した電磁石はホローコンダクターを11ターン巻いて作製したが、1,000Aの直流電流を流したときに1,000Gの磁場を発生させることができる。電磁石を搭載したPLDチャンバーでRHEED観察を行うためには電磁石のシールド性を高める必要があることが明らかになった。作製した装置の性能を調べるためにSi基板上にYSZ薄膜をエピタキシャル成長させた際のRHEED像の観察に成功した。また、Aサイト過剰のチタン酸ストロンチウム薄膜をチタン酸ストロンチウム単結晶基板上に成膜したところ、既存のRHEEDが搭載できないPLD装置で作製した薄膜に近い、自発的な超格子構造が認められる薄膜の作製に成功した。 (c)については既存のダイナミックオーロラPLD装置を用いて、チタン酸ストロンチウム-コバルトフェライト複合薄膜で行ったが、断面TEMとEDS観察から元素の分布を調べることにより、ペロブスカイト構造のチタン酸ストロンチウムにスピネル構造のコバルトフェライトを添加した複合薄膜におけるスピノーダル分解の機構について、組成波の伝搬の観点から知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究項目(a)については、最大の難関であった電磁石とRHEEDの共存の問題が解決したことから、順調に進捗していると考えている。ただし、現状では当初計画していた時間分解型にはなっていないため、今後パルスレーザーの発振と電磁石に電流を流す直流電源とRHEED観察用のカメラを同期させるPCシステムを構築する必要がある。これは令和元年度内に実施する予定である。 研究項目(b)については、化学ポテンシャル計算の準備を進めつつあり。令和元年度中には本格的な計算に入る予定である。 研究項目(c)については平成30年度に開発した新しいダイナミックオーロラPLDを使わずにまずは現有のダイナミックオーロラPLDを用いて研究開発を進める予定である。この研究項目については次の項目に記載するようにこれまで実施してきたチタン酸ストロンチウム-コバルトフェライトとはスピノーダル分解を生じさせる組成波の進行方向が異なるチタン酸ストロンチウム-ニッケルフェライト系でも実施することで、これまでに生成していない新しい超格子構造(例えば面内が市松模様のような超格子構造)が生成すると期待している。 これらのことから、すべての研究項目について、多少の遅れはあるものの、大きな障害はなく進捗していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究項目(a)については、平成30年度の研究成果である、磁場中でのPLD成膜を可能とするダイナミックオーロラPLD装置とRHEED共存が可能であることを明らかにした点が重要である。ただ、現状では成膜中の薄膜の表面の結晶構造の観察には至っていない。これは、真空チャンバー内に磁場を印加するとRHEED観察用の電子線が曲げられてしまうためである。この問題を解決するために、今後は磁場の印加、すなわち直流電源をパルスレーザーの発振とRHEED観察を同期させるようなPC制御システムを構築する必要がある。 研究項目(b)については、実際に計算を開始しつつあり、令和元年以降本格的にこれを開始する。 研究項目(c)については、平成30年度に研究を行ってきたチタン酸ストロンチウム-コバルトフェライト系に加えてチタン酸ストロンチウム-ニッケルフェライト系でも実験を開始する。これまでの研究でチタン酸ストロンチウム薄膜の場合にはスピノーダル分解を引き起こす組成波は基板の垂直方向(z-軸方向)にのみ伝搬し、コバルトフェライトの場合には3次元的にランダムに伝搬し、ニッケルフェライトの場合には面内の2方向(x-軸およびy-軸方向)に伝搬することを明らかにしてきた。このため、チタン酸ストロンチウム-ニッケルフェライト複合系ではチタン酸ストロンチウム-コバルトフェライト系とは異なる微構造が生成する可能性が期待される。
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