引張強度6GPaを超える超高強度・超軽量カーボンナノチューブ紡績糸の創製

2019 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 18H01708
• 研究機関: 岡山大学
• 研究代表者: 林 靖彦 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (50314084)
• 研究分担者: 鶴田 健二 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (00304329) ; 羽田 真毅 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (70636365) ; 西川 亘 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (80243492) ; 徳永 智春 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (90467332)
• 研究期間 (年度): 2018-04-01 – 2021-03-31
• キーワード: カーボンナノチューブ（CNT）紡績糸 / 乾式紡績 / 熱化学気相成長（CVD） / 2層CNT / 高強度 / 加熱処理

研究実績の概要

本研究では，長尺・高密度2層カーボンナノチューブ（CNT）を選択高速合成し，ドライプロセスで基板から連続的に引き出し紐状に撚る2層CNT長繊維技術を確立し，そのCNT長繊維の引張強度を高める技術を開発するものである．【研究1】2層CNTが多く合成できる条件の解明，【研究2】引張応力時の破断メカニズムを解明しCNT長繊維の高強度化，について研究を進めた．
【研究1】では，透過型電子顕微鏡TEMのその場観察より，室温からCNT合成初期の温度範囲で触媒金属粒子の形状変化を明らかにした．触媒粒子の径や形状がCNTの層数に大きく影響することが，多数のCNT合成の結果から明らかになった．このため，2層CNTを選択的に合成する合成条件が解明されつつある．
【研究2】では，CNT長繊維を作製後，真空および極簿エタンガス中で長繊維全体に通電加熱することで，ラマン分光法のCNTの構造に由来するGバンド（1590 cm-1）と欠陥に由来するDバンド（1350 cm-1）の強度比が急激に大きくなることが明らかになった．この結果は，高温処理により欠陥の修復および，CNT長繊維に残留するアモルファスカーボン（a-C）が除去されたことを示唆している．また，グラフェン層数を決定する二次の二フォノン散乱の2Dバンド（2700 cm-1）の出現から，a-Cからグラフェンへの構造変化が起こっていることを発見した．CNT長繊維に通電加熱高温処理をすることで，2GPaを超える（処理前は1から1.5GPa程度）高強度化を実現した．引張試験後のCNT長繊維の破断面の観察から，通電加熱後は，一気に破壊する脆性破壊が起こっていることが分かった．一方，通電加熱処理をしないCNT長繊維は，すべりによる繊維状破壊が起こっていることが分かった．このことから，通電加熱処理は高強度化に重要な手法と言える．

現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

2020年2月時点で，CNT高速熱化学気相合成装置の評価装置取り付け用のポートに破損が生じたこと，この破損により導入予定の装置の取付等に問題が生じ，合成装置の修理・調整が必要となり研究進捗に遅れが生じた．

今後の研究の推進方策

メーカーでの合成装置の修理・調整が必要となった．実験を開始するまでに10ヶ月程度を要することとなり（ポートの修理・調整だけでは対応できないため），この修理・調整を行うと本研究を実施するための出発材料となるCNTの合成も長期間合成が不可能となり，全ての研究がストップすることから，評価装置自体の再検討および研究を当初予定より進展させるための評価装置の検討を行うことにした．

研究成果

• [国際共同研究] University of Surrey(英国)
  • 国名: 英国
  • 外国機関名: University of Surrey
• [国際共同研究] Technische Universitat Dresden(ドイツ)
  • 国名: ドイツ
  • 外国機関名: Technische Universitat Dresden
• [雑誌論文] One-Minute Joule Annealing Enhances the Thermoelectric Properties of Carbon Nanotube Yarns via the Formation of Graphene at the Interface (2019)
  • 著者名/発表者名: Masaki Hada, Taisuke Hasegawa, Hirotaka Inoue, Makito Takagi, Kazuki Omoto, Daiki Chujo, Shogo Iemoto, Taihei Kuroda, Taiga Morimoto, Takuma Hayashi, Toru Iijima, Tomoharu Tokunaga, Naoshi Ikeda, Kazuhiro Fujimori, Chihiro Itoh, Takeshi Nishikawa, Yoshifumi Yamashita, et., al.
  • 雑誌名: ACS Applied Energy Materials 巻: 2 ページ: 7700-7708
  • DOI: 10.1021/acsaem.9b01736
  • 査読あり
• [学会発表] Improving of dry-spinnability of carbon nanotube arrays by Fe-Gd catalyst (2019)
  • 著者名/発表者名: Tomohiro Nakagawa, Hirotaka Inoue, Takeshi Nishikawa, Yoshifumi Yamashita, Yasuhiko Hayashi
  • 学会等名: OptoX-NANO 2019
  • 国際学会
• [学会発表] Dry-drawable few-walled carbon nanotube forest synthesized by chemical vapor deposition (2019)
  • 著者名/発表者名: Hirotaka Inoue, Tomohiro Nakagawa, Masaki Hada, Takeshi Nishikawa, Yoshifumi Yamashita, Yasuhiko Hayashi
  • 学会等名: OptoX-NANO 2019
  • 国際学会
• [学会発表] ポストテンショニング処理によるカーボンナノチューブ紡績糸の高強度化 (2019)
  • 著者名/発表者名: 井上寛隆，中川智広，西川亘，山下善文，林靖彦
  • 学会等名: 019年 第46回 炭素材料学会年会
  • 国際学会