研究課題/領域番号 |
18H01712
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
松本 要 九州工業大学, 大学院工学研究院, 教授 (10324659)
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研究分担者 |
堀出 朋哉 九州工業大学, 大学院工学研究院, 准教授 (70638858)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超伝導 / TDGL / シミュレーション / ナノ組織制御 / 薄膜 |
研究実績の概要 |
超伝導状態は単一の秩序パラメータΨで表される巨視的量子状態であり,磁場に対する応答として位相欠陥の一種である量子渦が超伝導体内部に形成される。量子渦は磁束量子を持ちその運動素過程の理解は応用上大変重要である。量子渦の可視化はSTM,ローレンツ顕微鏡,磁気光学MO,等々の様々な実験手法で試みられたが,試料表面のみの情報に限定され,かつ空間・時間分解能不足により量子渦の振る舞いの詳細な理解には不十分であった。本研究では,量子渦を記述できる時間依存Ginzburg-Landau(TDGL)方程式に基づいて,臨界電流密度Jc制御への展開を想定して,超伝導体中の微細組織と量子渦との相互作用の素過程を定量的に可視化する大規模シミュレーション技術の開発を行う。2020年度は,当グループで作製したREBCO超伝導薄膜の4.2Kにおける磁場中における巨視的ピン止めFp特性を測定し,その得られた結果について,これまでに開発したシミュレーション手法を用いて解析を行った.REBCO超伝導薄膜にはBaHfO3ナノロッドが導入されており,その結果,低温・高磁場において大変高いFp特性が得られるが,大変興味深いことにシミュレーションによって得られた値は,実際の実験結果と良い一致を示した.実験値とシミュレーション予測値の一致はナノロッドを含むREBCO超伝導薄膜は理想的なピン止め特性を有していることを示しており,大変興味深い.今後,この技術を幅広い微細組織を含む系や,より高温側へと展開することで,現実の材料の超伝導特性を再現できるようになることが期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで,われわれはTDGL方程式を用いて量子渦の運動をシミュレートする計算コードを開発ずみであり、このコードを用いて、現実の超伝導体の微細組織を計算機の中に仮想的に作り出すことができるようになってきた。今回,強いピン止め力を有するBaHfO3ナノロッドを有するREBCO超伝導薄膜を作製して低温・高磁場におけるピン止め力測定を行い,その結果と開発してきたシミュレーションによって求めたピン止め力の予測値を比較したところ,両者の値には定量的にも質的にもよい一致が得られている.このことより、本手法を用いて現実の超伝導物質におけるJc予測が現実のものになりつつあると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、実際様々なピン止め微細組織を有する超伝導試料について,ピン止め力の実験値および微細組織のデータを取得し,微細組織の情報を計算機内に再現し,大規模なTDGLシミュレーションを実行する.得られた両者を比較して,計算用のパラメータを修正し,現実のピン止め特性を再現できるようにデータ同化を進めていく.これらのデータを蓄積していくことで,より正確にピン止め力を予測できる大規模TDGLシミュレーション技術を完成させていく予定である.
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