本研究課題は、酸化物ガラスにおける弾性定数を鍵として、組成と構造との相関を調査した。特に、縦弾性率とガラスにおける空隙との関係について、種々の酸化物ガラスについて調査を行った。遷移金属を含まないケイ酸塩ガラス系においては、組成と弾性率、および、陽電子消滅実験から得られた空隙との間に良い相関を見出した。参照物質であるSiO2と合わせて、これらが1つの基準軸となることを確認した。また、同様に遷移金属を含まないホウ酸塩ガラスに関しても、NMRより示唆される自由体積、弾性率、および、空隙の間に良い相関を見出した。これらは、主成分分析によって、その相関係数を算出し、異なるガラス間における比較に用いる予定である。幾つかの成果については、論文として公表をおこなった。一方で、リン酸塩ガラスにおいては、遷移金属を多量に含有している組成が多いこともあり、陽電子消滅実験より空隙を求めることが困難であった。これは、理論的に空隙を与えるオルソポジトロニウムの生成が遷移金属のd電子によって抑制されているためであると考えることができる。ただ、どの程度の遷移金属元素の濃度が、空隙算出の可否を決める閾値になるかは今後検討する余地があると考えている。これらの遷移金属元素を含有するガラスにおいては、他の物性、あるいは、量子ビームを用いた構造解析・シミュレーション結果から、その算出値に関する妥当性を今後、多くの系を関して調査することによって、議論する必要があるという研究指針を得ることができたと考えている。
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