研究課題/領域番号 |
18H01715
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
青野 祐美 鹿児島大学, 理工学域工学系, 教授 (80531988)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アモルファス窒化炭素 / 光誘起変形 / 光エネルギー変換 / 光駆動デバイス |
研究実績の概要 |
本研究は、アモルファス窒化炭素薄膜が可視光で変形する光誘起変形の起源を解明することを目的とするものである。アモルファス窒化炭素薄膜は、光エネルギーを直接力学的エネルギーに変換できることから、光駆動デバイスの実現に有用な材料であるが、アモルファス窒化炭素薄膜が光誘起変形を起こす原因については、まだよくわかっていない。その理由に、結合が一義的に決まらないというアモルファス炭素系材料の特性が挙げられる。そこで本研究では、アモルファス窒化炭素薄膜と同様の方法で作製したアモルファス炭素薄膜を用いることで、炭素ー炭素結合と炭素ー窒素結合を切り分けて光誘起変形と化学結合状態の関係を明らかにすることとした。 本年度は、主に炭素ー炭素結合が光誘起変形に及ぼす影響のうち、光誘起変形量と光熱変換量について調べた。具体的には、アモルファス窒化炭素薄膜と同じ装置を用いて、窒素を含まないアモルファス炭素薄膜を作製し、その光誘起変形量を測定すると同時に、光熱変換により発生した試料表面の温度変化を調べた。その結果、変形量は温度変化量と比例関係にはないことがわかった。熱膨張係数を調べたところ、アモルファス炭素薄膜は収縮の傾向が見られた。一方、光誘起変形量の大きなアモルファス窒化炭素薄膜は膨張傾向が見られた。 軟X線発光分光法を用いた面マッピング測定を行ったところ、アモルファス炭素薄膜においてもアモルファス窒化炭素薄膜同様、面内にsp2結合の割合が大きい部分が見られた。しかしながらこれは従来から提唱されていたラマン散乱スペクトルから見積もられるグラファイトクラスタサイズとは異なるサイズであることが明らかとなった。 また、赤外分光法を用いて、温度を室温から60℃程度(光熱変換効果により試料が加熱された際の温度)まで上げた際の赤外吸収スペクトル測定を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度から継続して行っている、アモルファス炭素薄膜の光誘起変形における光熱効果を明らかにした。また、2年目までに達成する予定であった、アモルファス窒化炭素、アモルファス炭素両薄膜の化学結合状態の面内分布測定が完了したことから、研究は順調に進んでいると言える。本年度実施した熱膨張係数測定では、膜厚が薄く信頼性のあるデータが得られなかった試料もあったため、次年度の課題とする。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、アモルファス窒化炭素薄膜が可視光で変形する光誘起変形の起源を解明するため、特に化学結合状態とアモルファス構造に着目している。これまでに、炭素ー窒素結合だけではなく、炭素ー炭素結合によっても光誘起変形が生じること、光熱効果により光誘起変形とは逆の変形を生じることが明らかとなった。さらに、光誘起変形増大の鍵は炭素ー窒素結合が握っていることが明らかとなった。 今後は、アモルファス炭素およびアモルファス窒化炭素薄膜の熱膨張係数の信頼性向上に努めるとともに、放射光等を用いた、より詳細な化学結合状態の解析を行う。研究が順調に進んだ場合、これまでの知見を活かし、デバイス応用に向けた取り組みとして、スパッタ装置の改良を行い、炭素ー窒素結合の増加に取り組む。
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