スパッタ法で作製したある種のアモルファス窒化炭素薄膜において、可視光の照射中のみ体積が変化する光誘起変形が見られる。この光誘起変形現象は、光エネルギーを直接力学的エネルギーに変換できることから、光駆動デバイスへの応用が期待できる。しかしながら、アモルファス窒化炭素薄膜の光誘起変形量はまだ僅かであり、その機構も不明である。そこで本研究では、アモルファス窒化炭素薄膜の光誘起変形機構を化学結合状態の観点から解明することを目的とした。 本研究では、可視光照射時にアモルファス窒化炭素薄膜の炭素ー炭素結合および炭素ー窒素結合の変化を捉えるため、X線光電子分光(XPS)法、軟X線発光分光法(SXES)などの各種分光法による測定を実施した。また、放射光施設においてX線吸収端微細構造(NEXAFS)解析および赤外吸収分光(FT-IR)法を行った。 SXES測定では、薄膜表面のSXESマッピング測定を行い、得られたスペクトルから炭素のsp2/sp3結合比および組成比N/Cの面内分布を明らかにした。その結果、アモルファス窒化炭素薄膜における局所的なsp2/sp3結合比の偏りは、高い温度で作製した試料において、小さくなる傾向が見られた。また、均一性が高くなるに従い、光誘起変形量は小さくなる傾向が見られた。面内の化学結合状態不均一性については、放射光を用いたFT-IRスペクトルの測定でも確認された。また、光照射中と暗状態の2つの状態で実験を行ったところ、SXES、FT-IR、NEXAFSの各スペクトルにおいて変化が見られたことから、可視光照射中に化学結合状態が一時的に変化することが光誘起変形の原因であることが明らかとなった。
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