当該年度では、これまでに得られた知見を元にガラス組成中に含まれるリン酸成分がガラス超薄膜の室温接合に及ぼす影響を詳細に調査した。45S5ガラスからリン酸を除いた組成(以下、NCS)でガラス超薄膜を作製し、その内部構造や表面状態を赤外分光法、ラマン分光法、走査型電子顕微鏡(エネルギー分散型蛍光X線分光付属)およびX線光電子分光法により調査した。45S5ガラスはNCSガラスに比べて架橋酸素の量が多いこと、どちらのガラスでも表面にNaリッチ層が存在しデシケータ内で1日以上保管するとNa2CO3が析出し始めることがわかった。また、45S5ガラス中でリンは(PO4)3-の状態で存在し、Na+やCa2+を引きつけており、結果として接合界面ではSiに結合している架橋酸素数を多く含む鎖状構造のケイ酸塩の溶出量が増加し、強固な接合が形成されることが示唆された。 また、新たなガラス組成としてリン酸塩ガラスや酸窒化リンガラスについても超薄膜化が可能であることを確認した。これらのガラスは45S5ガラスとは異なり、水を滴下しなくてもガラス基板に接合が可能であった。 ASTMに基づく引張試験を試みたところ、Obleimof-Metsik法で測定した接合強度から見積もられる引張強度よりも弱く、安定した引張試験を実施することが困難であった。これは接合界面の結果(気泡・異物混入、Na2CO3の析出)などが影響しているものと考えられる。ガラス超薄膜の室温接合により大面積の表面に強固な被覆を実現するためには、ガラス超薄膜の作製から接合までをH2OおよびCO2を除去した環境下で行う必要があると考えられる。
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