近年,電子デバイスを三次元積層造型法によって作製することが試みられており,その配線材料として導電性ペーストが候補とされている.本研究では導電性ペーストの導電相間の接触状態と電気抵抗の関係を明らかにし,大電流通電負荷に対する電気的信頼性にすぐれた材料開発を目的とした. 通電に対してはジュール発熱を低減する必要がある.導電性ペーストの体積抵抗は主に銀粒子間の接触抵抗が負っている.そこで銀粒子を覆う各種脂肪酸のキュア過程における相変態挙動について明らかにした.脂肪酸はペーストに含まれる溶剤によって一部溶出し,また加熱により蒸発することがガスクロマトグラフ質量分析によって明らかになった.樹脂の硬化収縮および冷却時の熱収縮は抵抗変化にほとんど寄与しなかった. キュア後の導電性ペーストに2.5~7.5Aの1時間通電を行い抵抗ならびに温度変化を測定した.通電開始と同時にジュール発熱によって温度上昇し,7.5A通電では導電性ペーストの温度は200℃に達した.温度上昇とともに抵抗も増加し,ピークに到達後減少に転じ,一定値を示した.通電終了後の室温での電気抵抗は通電前と比べて50-80%減少した.これはジュール発熱によって銀粒子間に残存していた脂肪酸や樹脂が相変態したためと考えられる.またキュア後の導電性ペーストの曲げ歪みに対する電気抵抗変化を測定した.歪みの増加とともに銀粒子間距離が大きくなり,抵抗は増加した.また一定以上の曲げ歪みを負荷すると電気的に破断(断線)するが,除荷することで再び導電性を発現した.そのほか高温・高湿環境に対する電気抵抗変化ならびに低融点金属で導電相間を架橋する効果について評価した. 銀粒子間の接触界面における物質変化の視点から導電性ペーストの電気,歪み,温度,湿度などの環境負荷に対する電気的信頼性について評価し,配線として活用するための基礎的かつ実用的な結果を得た.
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