研究実績の概要 |
下肢動脈が動脈硬化症等により狭くなると, 歩行困難や最終的には下肢切断に至る. 下肢動脈を最通させるためには「ステント」と呼ばれる金網状の筒を患部に留置する治療法が一般的である. 特に留置環境として過酷な下肢領域では, 心臓冠動脈に比べて再狭窄(血液成分の付着を起因として再び詰まること)率が10倍以上高いことが課題となっている. 現状, 下肢環境に耐えうる最適なステント材料は超弾性合金のニッケルチタン (NiTi) であるが, 血液適合性の低さに起因する血栓形成の懸念が非常に大きい. 本研究は①NiTiステント上でもはく離せずに三次元コーティングを行なう技術の確立②Niイオン溶出を抑制するコーティング構造の決定③炭素系薄膜のダイヤモンドライクカーボン (DLC) をベースとした優れた血液適合性の実現を目的としている. 本年度は申請時実験計画に基づいて以下を行なった. 1. 中間層として, 金属との密着性に優れるケイ素添加DLCを成膜時の出力や原料ガス流量を変化させることで複数種作製した. 基材とコーティングの密着性の要因である界面結合状態, 薄膜自体の硬度, 膜厚を測定した. 界面結合状態はグロー放電発光分析法, X線光電子分光法により明らかにし, 硬度はナノインデンテーション法にて測定した. 2. DLC系薄膜とNiTiの密着性を評価するため, スクラッチ試験のはく離荷重を測定した. さらに下肢動脈に生じる平均13%の伸長を模擬した引張疲労試験を実施した. その後電子顕微鏡を用いて膜表面を観察し, はく離の有無を評価した. 3. 抗血栓性評価のため, ヒト血液由来の血小板,白血球溶液に浸漬した試料上の血液細胞付着数の定量を行ない,活性化度を観察した.生体毒性評価のため, 試料上でヒト臍帯静脈内皮細胞を一週間培養し,吸光度測定により細胞付着数を測定した.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,今年度に決定した構造を有する新規DLC系薄膜を実際にステント上にコーティングし, その密着性を評価するため実機疲労試験を行なう. また生体内でのコーティングステントの有用性を評価するため,ウサギの胸部大動脈にステントを留置し12週間後の血管造影を行なう.上記の実験の結果を適宜フィードバックし, 必要に応じて成膜条件を変化させることで, 新規DLC系薄膜の構造の改良を行なう.
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