研究課題/領域番号 |
18H01727
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
大口 裕之 東北大学, 未来科学技術共同研究センター, 准教授 (40570908)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 錯体水素化物 / 固体電解質 / 薄膜 / 全固体電池 / 界面 |
研究実績の概要 |
本申請研究では、錯体水素化物LiBH4 およびその一部をLiIで置換したLi(BH4)1-xIxを固体電解質とする全固体Li電池の研究開発を促すために、薄膜を用いた電池界面調査を目指している。昨年度には、申請者独自のLi(BH4)1-xIx薄膜の界面研究適性を判定するために薄膜表面観察を行った。また、今後の界面研究の予備的な研究として、Li(BH4)1-xIx粉末試料を使った界面安定性評価および全固体Li電池試作品の作製を行った。以下にそれぞれの成果を説明する。 走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、薄膜の大部分は基板全面を均一に覆っており、また厚みはほぼ一定で、界面研究に適することが分かった。しかし、およそ100μm程度の間隔に一つの割合で直径数μmのドーム状の塊が現れる問題が見つかった。 原子間力顕微鏡観察からは、薄膜の主要部は平均粗さが数nm程度の優れた平坦性を有する一方、前述のドーム状塊のために、全体での平均粗さは数百nm程度に悪化することが分かった。また、平坦表面の獲得に不向きな島状成長が薄膜成長初期に起こっていることも示唆された Li(BH4)1-xIx粉末試料を用いた界面安定性の予備的な実験では、Li(BH4)1-xIx電解質が金属Li負極に対して安定であり、Liイオンが100回以上行き来してもほとんど変化しないことが示された。この結果は、従来の固体電解質である酸化物や硫化物とは対照的であり、錯体水素化物の固体電解質としての高い潜在能力を示している。 上記の金属Li負極に対する安定性によって、Li(BH4)1-xIx粉末試料を使った全固体Li電池試作品は、50回以上の充放電後にも安定した電池動作を示した。ただし、正極と電解質の界面反応に起因すると思われる界面抵抗の増大および容量低下が見つかっており、薄膜を用いた詳細な界面調査が待たれる状況である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
以下に今年度の成果を列挙する。 ・走査型電子顕微鏡および原子間力顕微鏡によるLi(BH4)1-xIx薄膜表面観察: 均一かつ平坦な薄膜の大部分は界面研究に適したものであることを明らかにした。しかし、およそ100μm程度の間隔に一つの割合で見つかる直径数μmのドーム状の塊が全体の平均粗さを著しく低下させており、今後の界面研究のためにはドーム状塊を除去する何らかの対策が必要であることが示唆された。 ・Li(BH4)1-xIx粉末試料を使った界面安定性の予備的な評価:Li(BH4)1-xIx電解質の金属Li負極に対する優れた安定性が確認された。 ・Li(BH4)1-xIx粉末試料を使った全固体Li電池試作品の作製とその動作評価:50回以上の充放電後にも安定した電池動作を示した。ただし、正極と電解質の界面反応に起因すると思われる界面抵抗の増大および容量低下が見られており、この原因解明と電池性能向上のために、薄膜を用いた詳細な界面調査が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度にLi(BH4)1-xIx薄膜を電子顕微鏡および原子間力顕微鏡により観察し、その表面が、全固体Li電池の界面研究にとって望ましくない数百nmの凹凸によって覆われていることを明らかした。本年度は、以下に示す二通りの平坦表面形成阻害要因を取り除き、表面凹凸数nm以下の薄膜を合成し、それを用いて電池界面現象の解明を目指す。 一つ目の阻害要因は大量分子塊の飛来である。これは、LiBH4等のペレットをレーザー加熱して原料ガス化させる際に、LiBH4等の分解によって発生した水素ガスが原料を吹き飛ばすために起こると考えられる。そこで今後レーザー加熱過程に改良を施す。例えば、発生する水素ガスを逃がすように、高密度に詰まったペレットに代えて低密度の粉末を原料とする方法を実施する。また、これまで収光していたレーザーの焦点をずらし、レーザー照射スポット範囲を広げてエネルギー密度を下げ、水素化ガス発生を穏やかにすることも検討している。 二つ目の阻害要因は薄膜島状成長である。これを抑止するために、基板表面の水素化およびイオン液体被覆の二通りの基板表面改質を実施する。第一の表面改質では、水素化によって基板表面を疑似的に水素化物とし、その上に成長する錯体水素化物との化学的親和性を向上させる。第二の表面改質では、錯体水素化物との化学的親和性が高い(良く溶ける)イオン液体によって基板表面を覆ってしまい、その上に錯体水素化物を成長する。 以上によってLi(BH4)1-xIx薄膜の平坦性を向上させた後に、正極-電解質ーLi金属負極構造を有する薄膜Li電池を作製し、その電池動作に伴う界面現象を、特に正極側に注力しつつ調査する。
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