研究課題/領域番号 |
18H01728
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
稲邑 朋也 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (60361771)
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研究分担者 |
西田 稔 九州大学, 総合理工学研究院, 教授 (90183540)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 形状記憶合金 / 長寿命 / 熱サイクル / ドメイン組織 / マルテンサイト |
研究実績の概要 |
ねじれたドメインを消去することによる形状記憶合金の長寿命化指導原理を明らかにするために,第3,第4元素を添加して格子定数を最適化した「スーパーニチノール合金」の特性評価および組織評価を重点的に行った.透過型電子顕微鏡による初期組織の解析から,本合金ではドメイン内部のサブドメイン(内部双晶)が消失する格子定数条件を満たしていないにもかかわらず,実際の合金では内部双晶が全く見られず,双晶界面だけからなる極めて特異な組織を呈していることが明らかになった.Rank-1接続の解析から,本合金では<111>を軸とする3回対称ドメインのねじれは0.1度にまで低減されており,極めて整合性の高い組織であることが確認された.本合金の熱サイクル特性は,現在1600サイクルまで行っており,熱サイクルにともなう駆動温度変化はほぼ0℃であることが明らかになっている.さらに100MPa程度の応力下での熱サイクル試験を行ったところ,比較材のTi-Niではサイクル毎に残留歪みが蓄積し,駆動温度も数℃ずつ低下していくのに対して,スーパーニチノール合金では,残留歪みは発生せず,駆動温度も全く変化しないことがわかった.本試験は40サイクルまで行っているが,さらなる高サイクル側での試験は来年度に行うこととする.このように,ねじれを消去した組織の解析が格段に進展し,さらに世界に先駆けて,応力下での熱サイクル特性の安定化に成功している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
応力下での熱サイクル特性の安定化に世界で初めて成功した.また析出処理によるさらなる安定化・高強度化の研究を進めている.さらに,当初全く予期していなかったが,従来知られているねじれのないドメイン構造の発生条件を,必ずしも満たさなくても,疲労特性にすぐれた合金が設計できることを実証することができた.この成果は,これまで以上に多様な高性能形状記憶合金を設計できる可能性を示唆しており,当該領域に及ぼすインパクトは計り知れない.さらにこの結果の予想外の派生として,高強度マグネシウム合金にみられるキンク変形組織の幾何学理論を構築することができた.この理論は「回位」が変形に大きく寄与していることを示すものであり,回位に基づく金属材料の変形理論につながる成果である.この様な理由から,現在までの進捗状況を「当初の計画以上に進展している」とした.
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今後の研究の推進方策 |
当初は転位組織の解析から着手する予定であったが,初期組織の解析をすすめた結果,初期組織自体が極めて特異なものであることが明らかになったので,初年度においては初期組織の解析に注力した.従って来年度から熱サイクル・応力下熱サイクル時の転位発生挙動の解析を重点的に進める.また想定以上に疲労特性に優れていることから,合金設計の段階はほぼクリアしており,析出処理による「形状記憶処理」の研究に着手する.この処理法を抑えることが実用合金を製造するための鍵となるので,早急にすすめる必要がある.
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