本課題では,形状記憶合金の内部組織に存在する結晶の「ねじれ」を消去した合金を用いて,転位累積と機能劣化におよぼす「ねじれ」の影響を解明することで,「ねじれ」が機能劣化の源であり,これを消去すれば形状記憶合金の超長寿命化が達成できることを実証することを目的としている. 今年度は,ねじれをマルテンサイト変態の格子変形の関数として表して,ねじれを消去するための条件式を導いた. ドメイン組織のSEM-EBSD観察およびTEM観察によって,ねじれ消去の条件式を満たした合金においては,タイル状のマルテンサイトドメインからなる特異な相変態組織が形成されていることが明らかになった. 示差走査熱量分析を行った結果,ねじれを0.1°まで低減して,ほぼねじれ消去が達成されている合金では,1000サイクル以上の繰り返し相変態によっても変態温度の変化は認められなかった.一方,従来材のTiNi(ねじれ>2°)および,ねじれが1°残留している合金においては,100サイクル後の変態温度は,1サイクル目にくらべてそれぞれ-15℃,+2℃変化していた.さらに熱サイクル後の転位組織を解析した結果,ねじれ消去合金でのみ,転位の累積が全く見られず,他の合金内には高密度の転位が観察された.引張試験およびビッカース硬度測定でも,ねじれ消去合金は熱サイクル前後で力学特性に変化はないが,ねじれの残存した他合金では,熱サイクル後に加工硬化が見られた. 応力下での形状記憶効果のサイクル特性を計測した結果,ねじれ消去合金の形状回復は100サイクル後でも良好であるのに対して,ねじれが残留した合金では,変態温度のシフトと形状回復ひずみの低下がみられた. 以上の結果から,ドメイン組織のねじれを消去することで,転位の発生が抑制され,形状記憶合金の繰り返し駆動特性が向上することが実証された.
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