昨年度までに,ラスマルテンサイトのみならず,再結晶フェライトを初期組織とするFe-16mass%合金においても,加熱速度200℃/sの定速加熱によってbcc-fccマルテンサイト逆変態が発現すること,さらに,その時の逆変態駆動力が500J/mol程度に達することがわかった.さらに,マルテンサイト逆変態後に急冷し,再びbcc-マルテンサイトへと変態したFe-16mass%Ni合金を用いて,EBSD(Electron Back Scattered DIffrtaction)法やECCI(Electron Channeling Contrast Imaging)法による組織観察を実施した結果,初期組織をフェライトととした場合のマルテンサイト逆変態およびその後のマルテンサイト変態においても,結晶方位の可逆変化が生じることを明らかにした. これを踏まえて,本年度は上記の解析手法を駆使し,より詳細な組織解析を実施した.具体的には比較的広範囲なEBSD法による結晶方位解析を実施し,最終的に得られるマルテンサイトと初期の再結晶フェライトの集合組織を比較した.その結果,マルテンサイトには初期フェライトが有する加工集合組織が明らかに引き継がれていることが確認でき,巨視的な視点からもマルテンサイト逆変態およびその後のマルテンサイト変態における結晶方位の可逆変化を証明することができた.さらに,ECCI法では再結晶フェライト組織を引き継いだ微細粒マルテンサイトの内部に,マルテンサイト変態の格子不変変形によって導入される高密度の転位を観察することができたが,初期フェライト組織と比較して明瞭な硬度上昇は得られなかった.この結果は,加工再結晶によって形成した微細粒フェライトがすでに十分高い硬度を有することに加え,マルテンサイト変態/逆変態で導入される高密度の転位が比較的短時間で回復することを示唆している.
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