本年度研究においては,β相多結晶体における粒界破壊を抑制すべく,α+β型二相合金に新たに着目し,複相化による粒界偏析の抑制,これを介した延性の向上の可能性について検討した.この結果,例えばβ相体積率を50%程度に抑えた二相合金についてSEM-EDS分析を行ったところ,5Alと比較して粒界偏析の程度が小さく,α相体積率を増大させることで粒界偏析を抑えられる可能性が示唆された.この結果を踏まえ,適切な体積率,組織を有した複相合金を作製し,力学特性を引張試験により評価したところ,bcc単相である5Al(WQ),またβ相体積率の多い二相合金は弾性域で破断するものの,β相体積率を50%程度に抑えた合金では,数%以上の引張延性を持ちつつ,250MPaを超える降伏応力を示すことが見出され,期待通り延性の改善を実現することができた. まとめとして,三年間の研究により,当初の目的である,塑性変形挙動,溶解挙動,弾性率の結晶方位依存性をすべて明らかにすることができ,bccという対称性の高い構造を有するにもかかわらず,特に溶解挙動,弾性率が強い方位依存性を示すことが明らかになった.また力学特性について,β型Mg-Li合金に5at.%のAlを添加した単結晶を作製し,かつ高温からの焼き入れ処理を施すことで,従来に例のない450MPaもの高強度化が実現されることが世界で初めて見出された.但し多結晶材においてはこの高強度化に伴い同時に著しく脆化することも明らかになった. この改善策として,α/β二相合金化することで,ある程度の延性を確保しつつ高強度化できる可能性が見出された.今後結晶粒微細化といった更なる組織制御により,力学特性をより最適化した合金開発が期待できることが示された.
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