研究実績の概要 |
この酸化物半導体の熱電性能向上のため,格子熱伝導フォノンの散乱源として格子欠陥の導入を試みた.高周波フォノンの散乱源としてはある程度の固溶が確認されている,三価のイオンが安定であるCrと四価のイオンが安定であるZrを添加し,熱電性能の変化を測定した.いずれの添加元素も格子熱伝能を低下させたが,より大きな割合で電気抵抗を増加させ,熱電性能の向上には寄与しないことが明らかとなった.これは酸素欠損に伴う結晶学的シアー面の導入によりすでに大きくフォノン散乱が生じていたためと考えられた.一方,低周波フォノンを散乱させるために結晶中に複合酸化物を析出させる試みを行なった.添加元素のZrが高温では結晶中に固溶するが低温では複合酸化物を形成することを利用し,高温における固溶限近くまでZrを添加した試料を溶体化処理後,低温で熱処理することで複合酸化物を析出させた.1000℃で一週間の析出熱処理を行なった試料では比較的粗大な複合酸化物が結晶粒界上に析出したが,低周波フォノンの散乱能はあまり大きくなく熱伝導率低下への寄与は小さかった.析出相の大きさを小さくし,電気的特性への影響を小さくするために結晶粒内で複合酸化物を析出させるため,より低温での熱処理による析出相の形成について調査した.しかしながら熱処理温度が900℃以下になると極端に析出が起こりにくくなり,期待していた粒内への微小析出物の分散が実現できる熱処理条件を見出すことができなかった.さらに,試料作製時の粉砕工程に起因すると考えられるCa,Mgの酸化物の混入が確認され,これまでの結果がこれらの影響を含むものであることが明らかとなった.
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