研究課題/領域番号 |
18H01740
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
高井 健一 上智大学, 理工学部, 教授 (50317509)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 水素脆性 / 高強度鋼 / 水素 / 破壊 / 格子欠陥 |
研究実績の概要 |
自動車用材料を始め、機械・構造材料は応力を負荷されながら使用され、かつ、腐食環境・高圧水素環境など過酷な条件下で使用されるため、ある時間経過後に突然破壊する水素脆化が懸念されてきた。従来は、マクロな側面から水素脆化特性が評価され、近年では、「材料中の微量な水素量・形成した格子欠陥量」と「水素脆化特性」を関連付ける試みがなされてきた。しかし、材料の破壊は局所で起こる現象であり、「材料全体の平均情報(平均水素量・平均格子欠陥量)」を測定しても、必ずしも一致しない問題点があった 本年度は、焼戻しマルテンサイト鋼において、水素起因で破壊した場合の「局所領域で発現した原子スケールでの変化」から、水素脆化破壊の本質まで掘り下げて調査することを目的をした。その結果、介在物を起点として、擬へき開(QC),粒界(IG),ディンプル(MVC)と放射状にき裂が進展していた。また、き裂の起点部から採取した破面は介在物、QC、IG、進展部から採取した破面はIGのみを含んでいることも確認された。低温TDSによって得られた結果から、進展部のトレーサー水素放出スペクトルは、-20~100 ℃の水素放出範囲であった。一方、起点部のトレーサー水素放出スペクトルは、-20~100 ℃の水素放出範囲だけでなく、70 ℃以上の高温に肩が出現した。以上の結果は、き裂の起点部と進展部で格子欠陥の形成挙動が異なることから、水素の作用も異なることを示唆している。 以上より、水素脆化破壊の発生から進展における局所領域で発現した原子スケールでの変化を明らかにすることが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、焼戻しマルテンサイト鋼において、水素起因で破壊した場合の「局所領域で発現した原子スケールでの変化」から、水素脆化破壊の本質まで掘り下げて調査することを目的をした。従来は、試験片全体から得られた平均情報(破面観察、平均水素量、水素ひずみ助長格子欠陥量)」と「マクロな力学特性(水素脆化特性)」は必ずしも一致しなかった。そこで、本研究では実際に破壊した破面から得られる情報(fracture surface topography analysis:FRASTA解析)、破面直下の情報(低温TDSによる局所水素助長格子欠陥量)について検討した。 その結果、介在物を起点として、擬へき開(QC),粒界(IG),ディンプル(MVC)と放射状にき裂が進展していた。また、き裂の起点部から採取した破面は介在物、QC、IG、進展部から採取した破面はIGのみを含んでいることも確認された。低温TDSによって得られた結果から、進展部のトレーサー水素放出スペクトルは、-20~100 ℃の水素放出範囲であった。一方、起点部のトレーサー水素放出スペクトルは、-20~100 ℃の水素放出範囲だけでなく、70 ℃以上の高温に肩が出現した。以上の結果は、き裂の起点部と進展部で格子欠陥の形成挙動が異なることから、水素の作用も異なることを示唆している。さらに、FRASTA法を用いて再構築された水素起因割れにおけるき裂の進展挙動を調べた結果、破壊の初期段階では,母材と介在物の界面剥離によってき裂が発生した。破壊の中期段階では、介在物の周辺にQCが形成され、破壊の最終段階では,QCからIGへとき裂が急速に進展した。この結果は、介在物が破壊形態やき裂の進展挙動に影響を与えることを示している。以上より、水素脆化破壊の発生から進展における局所領域で発現した原子スケールでの変化を明らかにすることが可能となり、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本課題の目的は以下3つであり、2018年度に(1)、2019年度に(2)を概ね達成でき、順調に進展している。、 (1)「 破面直下の局所領域の情報」と「離れた箇所の平均情報」の違いを明らかにする: (2) 「局所領域かつ原子スケール解析の情報」と「水素脆化特性」の対応を明らかにする: (3)「各種水素脆化試験方法」で得られた各破面近傍の局所情報の違いを明らかにする: 最終年度である今年度は、(1)と(2)の成果を総合して、(3)を中心に実施する計画である。具体的には、各種水素脆化試験(引張、定荷重、繰り返し)で得られた破面の局所情報の違いを明らかにする。これを基に、なぜ、各種試験方法で得られた結果に差があるかの理由を明らかにする。さらに、実使用環境で水素脆化破壊した破面の局所情報と比較することで、実使用環境を再現する新試験方法の提案、さらには根本から水素脆化克服に向けた革新的な材料設計指針へと発展させる。
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