研究課題/領域番号 |
18H01741
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
轟 直人 東北大学, 環境科学研究科, 助教 (10734345)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 水電解 / 酸素発生反応 / 酸化物触媒 / 歪みマネジメント / エピタキシャル成長 / ヘテロ構造 |
研究実績の概要 |
本年度は白金(Pt)やイリジウム(Ir)などの貴金属単結晶基板上へのコバルト(Co)酸化物原子層薄膜の形成手法を主に検討し、更にそれらの水電解酸素発生触媒特性を評価した。まず、Co酸化物薄膜の形成手法として真空環境での各種蒸着手法を検討したところ、一定酸素分圧化で行うアークプラズマ蒸着(APD)法がコバルト酸化物原子層薄膜の堆積に有効であることがわかった。更に、X線回折やX線光電子分光法による構造解析からAPD法により堆積したCo酸化物薄膜はほぼ単相であり、狙いとするモデルの作製に成功した。そこで、特定の原子層厚を有するCo酸化物薄膜をIrおよびPt単結晶表面に形成し、その強アルカリ溶液中での水電解酸素発生特性を分極曲線測定、およびオンライン質量分析法を用いて評価した。その結果、その特性はPt基板とIr基板で異なり、またCo酸化物の原子レベルでの厚さにも依存した。特に、Ir基板に堆積した数原子層のCo酸化物薄膜は高活性酸素発生触媒として知られるIr単味よりも高い触媒活性を示すことを見出した。この結果は、Co酸化物の触媒特性が基板金属からの電子的・幾何学的影響を受け、特にその厚さが原子レベルで薄い場合に効果が大きいことを示唆している。 一方で、計算科学的なアプローチでは、単結晶コバルト酸化物の表面に歪みを与えたところ、触媒反応に関与するCoサイトのd電子軌道の準位が歪みとよい相関が得られ、またそれに応じて酸素吸着エネルギーが変調することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の成果により、初年度に予定していた、1.Pt単結晶基板上へのコバルト酸化物薄膜堆積手法の確立、2.堆積薄膜の構造解析手法の確立、3.計算科学的手法による酸化物触媒特性への格子歪みの影響解明を達成した。 更に、3年目後期までの目標であった、4.堆積基板の違いによる触媒特性の変調をPt基板とIr基板での比較から一部既に実現している。 以上より、本研究計画は当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は基板種として酸素発生反応特性をほとんど持たないAuを加え、貴金属基板上に堆積したCo酸化物薄膜の触媒活性向上因子として想定される電子的影響、幾何学的影響の2点を切り分けて議論するための実験を行う。更に、Co酸化物薄膜の結晶性・表面構造規定度を更に高めるため蒸着条件を詳細に検討した上で、薄膜の厚みをより厳密に制御し原子層厚さの影響も合わせて議論する。また、実験と並行して該当する酸化物薄膜への電子的・幾何学的影響を第一原理計算シミュレーションを用いて調査し、実験結果とシミュレーションで相互フィードバックしながら酸化物・金属ヘテロ構造が発現する特異な触媒特性の起源の解明に取り組む。
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