本年度は、固体高分子膜型水電解のアノードで起こる酸素発生反応に対し触媒活性を示すIr酸化物(IrO2)を対象に、ニオブ(Nb)ドープチタン酸化物(TiO2)単結晶基板へのナノ薄膜の成長、各種構造解析および触媒特性評価を行った。 アークプラズマ蒸着法を用い、IrO2ナノ薄膜を膜厚を制御してTiO2単結晶基板上に(110)配向して成長させることに成功した。面内X線回折測定によるIrO2ナノ薄膜の構造解析の結果から、IrO2薄膜の結晶格子は[001]方向では縮み、[-110]方向に広がっている、すなわち異方性歪みが印加されており、この異方性歪みは膜厚が薄くなるほど増大することがわかった。更に、この異方歪みの増大にしたがい、X線光電子分光法で観測されるIr4f軌道のピーク位置が高結合エネルギー側にシフトし電子状態の変化が確認され、これに起因して触媒活性が向上することが明らかになった。 また、酸化物触媒の酸素発生反応電流と触媒の溶出反応電流を区別するために、回転ディスク電極とオンライン質量分析装置を組み合わせた分析システムを新規構築した。白金電極を用いた分極曲線の測定、およびそれと対応するマススペクトルの評価から、新規システムが酸素発生反応触媒の分析に有効であることを確認した。また、燃料電池触媒反応である酸素還元反応、および電気化学的二酸化炭素還元反応に対し本システムを適用したところ、酸素還元反応に伴う電極表面近傍の酸素濃度の変化、二酸化炭素還元反応のディスク回転数の増加に伴う促進を見出した。
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