研究実績の概要 |
本年度は、過時効-強加工(伸線加工)プロセスによる組織制御の指導原理を構築するための基盤となる学術的知見を,時効硬化型Cu-Ti合金を通じて獲得することを目的とした。Cu-Ti合金を過時効すると粒界反応により粗大な不連続析出物がセル状に生成する.過時効処理により生成した不連続析出物(β-Cu4Ti)の体積分率,形状やサイズ,分散状態,母相の組成などは、合金組成や時効条件によってある程度制御することができる。そのため、適切に過時効した後に伸線加工すると合金の強度や導電性などの諸特性も変化させることができると予想する.そのため,合金組成や過時効条件を変化させ,それが伸線加工後の特性に及ぼす影響を系統的に調査した. 分析組成がCu-(2.7, 2.9, 3.5, 3.6, 4.2, 4.3) at.% Tiとなる6種類の棒材(直径3.0 mm)を作製とした.これを溶体化後、600 oC~450 oCの多段時効材に供した.多段階時効条件により作製した全てのCu-Ti合金はフルラメラ組織になる.Ti組成が大きい合金ほど過時効により得られるフルラメラ組織中の板状β-Cu4Tiの体積分率が大きくなる.これらの棒材を室温でのダイス伸線加工により直径0.10 mmまで線引きしたところ、Ti組成が大きいほど線材中にナノファイバー状のβ-Cu4Tiが高密度に分散するため、強度が向上する.導電率はTi組成が大きいほど低下するが、従来のピーク時効-伸線加工線材と比較して高い値を示す.その結果、過時効-伸線加工プロセスでは、従来材より強度、導電性が両方とも改善された線材群が作製できることが実証された. 強度-導電性のバランスはCu-Ti合金のTi組成が大きいほど好ましく、競合材のCu-Be合金線材の特性よりも優れていることも確認できた.今後、合金組成だけでなく加工・時効工程を精査すれば、銅合金最高レベルの強度-導電性バランスをもつ合金線材が実現する可能性は極めて高い.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度に研究計画していた内容を速やかに遂行し、当初計画していた上記の研究成果(「研究実績の概要」を参照)を上げた。これに加えて、下記の研究に着手し、ある程度の見解を蓄積している。 ・数kgロットのCu-Ti合金線材を実機(一般企業)にて試作した。作製したサンプル品を関連企業に提供し、用途展開を試みる予定である。 ・Cu-Ti合金線材に関する研究で得られた知見を他の合金系(Cu-Ni-Si系、Cu-In系, Al-Li系)に適応するため、これらの合金を作製し、時効析出現象を調査、検証を進めている。特に、Cu-In系合金では, Cu-Ti合金と同様のフルラメラ組織が生成されることを見出した。これを伸線加工した線材では、Cu-Ti合金線材と同等の強度を持ちながら、導電性が2倍近く高くなる結果を得ている。
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