研究課題/領域番号 |
18H01745
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
長谷川 誠 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (50376513)
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研究分担者 |
小沼 誠司 地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所, 川崎技術支援部, グループリーダー (00580581)
高木 眞一 地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所, 機械・材料技術部, グループリーダー (60426369)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 集合組織 / 結晶配向 / エアロゾルデポジション / 常温成膜 / 耐摩耗性 / 耐剥離性 |
研究実績の概要 |
本研究では、エアロゾルデポジション(AD)法によって結晶方位の揃った高配向なセラミックス膜を実現させるとともに、衝突による成膜に用いた粒子の塑性変形や破壊、高温での変形や成膜後の熱処理に基づいた結晶配向(集合組織)の形成の解明を試みている。さらには、結晶配向が膜の力学特性や耐磨耗性に与える影響についても明らかにすることも試みている。 基材としては、SiCやSKH51高速度工具鋼あるいはMoなどを用いた。また、原料粉末(粒子)としては、α-Al2O3やTiN、TiC、WC、ZrB2粉末を用いた。粒径としては粉末の種類に依存するものの、概ね0.2 ~ 4.0μm程度の粒子を用いている。 TiCおよびWCにおける成膜は入手した粉末においては困難であり、十分な膜の厚さを確保することは時間的に支障が出る可能性が大であったためいったん成膜を中止し、調査する粉末をα-Al2O3やTiN、ZrB2に絞り込んで成膜や評価を実施した。主にZrB2粉末を対象として成膜レートのガス流量や基板の影響を確認するとともに、作製した膜を対象に結晶粒組織と集合組織を調べ、粒子の速度が与える効果を調べた。また、α-Al2O3やTiN粉末により作製した膜を対象として、ブリネル硬さ試験機やスクラッチ試験機による剥離特性評価や超微小硬度計を用いた膜のヤング率や微小硬さなどの力学特性評価を行った。さらには、熱処理を大気あるいは真空中で1000℃~1400℃, 1 ~ 10時間の範囲で実施しすることで膜の結晶粒の粒成長を生じさせ、粒成長した膜の組織や集合組織がどのように変化するかについて実験的に確認を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、α-Al2O3やTiN、ZrB2粉末を中心として成膜を実施した。 ZrB2粉末の場合、室温にて成膜を実施すると若干ボイドが確認できるもののおおむね緻密かつ結晶質な膜であった。基材の種類やガス流量によらず、流量の増加とともに成膜レートが増加する傾向を示した。膜の集合組織には、ガス流量によらず、(10-10)面が成膜面に30~40度程度傾いた繊維集合組織が形成した。α-Al2O3膜における集合組織形成では、粉末の粒径によらず、(0001)面が成膜面に15度程度傾いた繊維集合組織の形成が見出された。また、ガス流量の増加に伴って集合組織が発達することも見出された。得られた集合組織は粒子の寸法に依存せず、粒子の基材衝突時の粒子の塑性変形により形成されることが明らかとなった。 形成したα-Al2O3およびTiN膜について、1200℃での熱処理では、熱処理時間の増加に伴い、結晶粒径が大きくなり、10 時間では約200 nmとなった。集合組織の主成分は成膜後と同じであるが、成膜後よりも発達した。結晶粒径が膜厚と同じになるならば、結晶の表面エネルギーが最も低くなるような方位の結晶粒が優先的に成長し、集合組織に変化が生じると考えられるが、今回は膜厚に複数の結晶粒が存在するため、異常粒成長のようなことは生じず、同様の方位を維持しての粒成長が生じたと考えられる。その意味では単軸圧縮変形後のバルク金属体の熱処理にともなう静的再結晶と同様の現象が生じていると考えられる。 成膜したα-Al2O3およびTiNの硬さやヤング率はアークイオンプレーティング(AIP)法により作製したTiNの膜よりも低い値を示したが、硬さで60%、ヤング率で80%程度であった。スクラッチ試験では、AD膜の初期き裂発生荷重はAIP膜よりも低いものの、膜と基材間密着力に関する荷重はほぼ同等の値を示し、代替の可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度に引き続きα-Al2O3, TiN, ZrB2粉末を対象に、種々のAD条件により基材上に成膜する。さらに、β-SiAlON粉末を新たに加える。 ZrB2およびβ-SiAlON粉末については、作製した膜を対象に結晶粒組織と集合組織を調べ、粒子の速度や基材加熱が与える効果を確認する。さらに、成膜後に熱処理を1000℃~1400℃, 10~200 時間の範囲で実施し、熱処理が膜に与える影響を組織観察と集合組織測定から実施していく。また、実際の粉末粒子の速度を測定することにより、粒子が基材衝突時のエネルギーを把握でき、成膜に与える影響を定量的に把握できることから、粒子測定装置を自作し、測定を試みることとした。さらに、膜の組織の個々の結晶粒における方位評価を行う。結晶粒中の方位をTEMおよびEBSDにより取得し、個々の結晶粒の方位情報を得る予定である。ただし、成膜後の粒子径が小さすぎるため、成膜後に熱処理を行った試料を対象に始めることにする。粒成長と結晶方位の関係について検討していく。 膜の力学特性評価については、引き続き、α-Al2O3およびTiNをメインにして行っていく。超微小硬度計による膜のヤング率および硬さ評価、ブリネル試験とスクラッチ試験による膜の特性、膜/基材界面の定性的な剥離特性評価と磨耗試験を成膜した試料と成膜後に熱処理した試料について実施する。また、金型への適用の検討を始めたため、実際のモデル金型を作製し、AIP膜のモデル金型をベンチマーク材として適用の可能性について検討する。 AD成膜およびその後の熱処理によって形成した膜の集合組織について、塑性変形、高温変形とその後の熱処理による結晶粒成長として、トータルに集合組織の形成機構について明らかにしていく。従来の集合組織形成に関する知見との相違を明らかにすることで結果をまとめる。
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