研究実績の概要 |
最終年度は以下の実験を予定し,対応する成果を得た. 実験①/(Ni, Ni-10Cr, Ni-20Cr, Ni-30Cr, Ni-40Cr, Ni-50Cr, Cr)溶射粒子/SUS基材の組合せにおいて各粒子遷移温度とNi-Cr組成比との関係を整理する.また各粒子の飛行中表面酸化層形成状態および基材上Splatの表面および裏面酸化状態をXPSの深さ方向解析により調査し,酸化状態と遷移温度との関係性より粒子基材間動的ぬれに及ぼす粒子表面酸化能関与の傾向性を把握する.実験の結果,1)Ni-Cr系合金のCr元素割合が高いほど酸素との親和性が高く,合わせて遷移温度が低くなったことから,粒子の酸素親和性または酸化度合いが遷移挙動に強く関与する可能性が示唆された.2)加熱したSUS304鋼基材の最表面はFe酸化物で構成され,粒子構成元素とFe元素の解離圧の高低により溶射粒子Splatへの基材側Fe酸化物侵入の可否が決定されることを明らかにした.3)基材最表面Fe酸化物と溶射粒子構成元素解離圧の相対関係が,溶射粒子材質ごとに異なる遷移温度をもたらす主因である可能性を国内外に先駆けて見出した. 実験②/上記傾向性把握の深掘りとして(Ni, Ni-30Cr, Cr)溶射粒子/加熱SUS基材の組合せにおいて,基材上各Splat裏面の超急冷凝固組織(チル晶)形成のEBSD観察を行い,粒子材質とチル晶形成状態との関連性を通し粒子偏平に及ぼす粒子/基材界面動的ぬれの関与性を明らかにする.実験の結果,Ni粒子には微細凝固組織チル晶が観察されたのに対し,Cr元素を含む粒子には結晶組織が認められず,Ni-Cr二元系における元素割合とチル晶形成の明瞭な関係性把握には至らなかった.Cr元素は超急冷に伴いアモルファス化する傾向性が高いことに起因するものと考察された.
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