研究実績の概要 |
Zn-Zr酸化物,Zn-V酸化物複合電析における酸化物の共析量,電析膜の微細構造,分極特性に及ぼすPEG添加の影響について調べた。Zn-Zr溶液からの電析では,Zn-Zr溶液からの電析では,PEG無添加の場合,Zr含有率は全電流密度域でほぼゼロであったが,PEGを添加すると増加した。特に1000 A・m-2以上の電流密度において,増加の程度が大きくなった。 Zn-V溶液からの電析では,V含有率はPEGを添加すると100~2000 A・m-2の電流密度域において増加した。PEGを添加すると陰極電位が卑に移行しH2発生速度が増加するため,Zr, Vイオンの加水分解反応が起こり易くなり,電析膜のZr, V含有率が増加したと考えられる。PEG添加によりZn-Zr,Zn-V複合電析膜共にZnの板状結晶が微細となり,Zr酸化物はスポンジ状,V酸化物は薄膜状となりそれぞれ表面の被覆率が増加した。Zrの共析率は,PEG添加により増加しており,このため,表面の被覆率も増加したと考えられる。表層におけるV酸化物の被覆率がPEG添加により増加した原因としては,Znの結晶形態の変化,すなわちZnの板状結晶が原板に対して平行な状態から直立したような状態への変化により,V酸化物の析出サイトが増加することが考えられる。PEGを添加した溶液から得られたZn-Zr,Zn-V電析膜の腐食電流密度は共に,PEG無しの溶液から得られたものより低くなった。何れも溶存酸素の還元反応が減少しており,そのため腐食電流密度が低下したと考えられる。PEGを添加した溶液から得られたZn-Zr複合電析膜の腐食電位は,純Zn電析膜のそれに比べて卑になるのに対して,Zn-V電析膜の腐食電位は,貴になっており異なる傾向を示した。Zn-V電析膜では,酸化反応の分極曲線が大きく分極しており,それに伴い腐食電位が貴に移行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Znの様な平衡電位が卑な金属においては,水溶液からの電析では,副反応としてH+イオンの還元反応が生じ,陰極界面のpHが上昇する。そのため,低pHで加水分解する金属イオンを第二元素として添加すれば,その金属イオンが加水分解反応により酸化物となりZn電析膜に共析させることが可能となる。この様に電析時に生じる加水分解反応を利用すれば,難溶性の固形微粒子を電解液に添加しなくても,複合電析を行うことが可能となる。これまでに,低pHで加水分解するAl3+, Zr4+,VO2+イオンをZn電解液中に添加して,その金属イオンの酸化物をZnと共析させる研究が行われている。しかし,AlやZrイオンは,酸化物としてほとんどZnと共析せず,またVの酸化物は,共析はするものの不均一であることが報告されている。 Mg,Al,Tiなどの標準単極電位がZnより卑な活性金属がZn膜に含有されると耐食性が向上することが分かっている。Zr, Vは活性金属であり,その酸化物が電析Zn膜に含有されると耐食性が向上することが期待される。そこで,本研究では,Zn電解液にZr4+ ,VO2+イオンを添加し,その加水分解反応を促進させるため,更にポリエチレングリコール(PEG)を添加した。PEGはZn電析の分極効果によるH+イオン還元増加によりZn電析時の陰極界面のpHを上昇させ,Zr酸化物の共析量を増加させることが報告されているがPEGの作用については不明な点が多かった。本研究では,Zn-Zr酸化物,Zn-V酸化物複合電析における酸化物の共析量,電析膜の微細構造,分極特性に及ぼすPEG添加の影響を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
(1) Zn-PEG-活性金属酸化物微粒子の共析挙動に及ぼすパルス電解の影響調 : ZnSO4, Zr(SO4)2,VOSO4水溶液中にPEGを添加し,パルス電解の条件(電流密度,パルス比,on-time)を変化させることにより,Zn析出およびZrO2,V2O4共析に影響を及ぼすパルス条件の影響を明らかにする。次に,各種複合電解浴(Zn- PEG-M,M: V, Al, Mg, Zr, Ce)からのZn析出, 水素発生の部分分極曲線を測定し,Zn, 水素,PEG,ナノ酸化物の析出挙動を平衡論および速度論的な観点から検討する。 (2) Zn-PEG-活性金属酸化物電析膜の微細構造解析: X線回折,SEM, EPMA, ESCAを用いて,PEGと活性金属酸化物の共析サイズ,分散状態,電析膜の結晶構造,配向性などに及ぼすパルス条件の影響を明らかにする。 (3) 電析膜の各種性能に及ぼすPEG, 酸化物ナノ微粒子共析の影響調査: 分極曲線,電気化学的インピーダンススペクトル測定により電析膜の耐食性を評価する。耐摩耗性は摩耗試験機にて,加工性は180°密着曲げにて,また塗装性は塗装後の耐食性,塗膜の密着性にてそれぞれ評価する。各種特性に及ぼす電析膜の微細構造の影響を明らかにする。
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