研究課題/領域番号 |
18H01756
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
佐々木 泰祐 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, 主幹研究員 (30615993)
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研究分担者 |
塚田 祐貴 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (00620733)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | マグネシウム合金 / 時効析出 / ベークハード性 / 3次元アトムプローブ |
研究実績の概要 |
平成30年度は、まずG.P.ゾーンが強化相として析出するMg-0.5Ca-1.6Zn-0.5Zr合金圧延材を作製し、BH性が発現することを明らかにした。BH性は、溶体化処理材に対して2%の引張ひずみを導入した後、170℃で20分の時効処理を行い、2%ひずみ導入時の応力と時効材の0.2%耐力の差から評価した。その結果、BH処理によって0.2%耐力が20MPa程度増加することが分かった。 さらに、Zn添加量の異なるMg-xZn-0.3Ca-0.3Zr(x=1-6) 合金圧延材を作製し、BH量を評価したところ、Zn添加量が2%より増加するにつれBH量が低下する傾向にあることが分かった。そこで、TEMと3次元アトムプローブを用いてBH処理を施したZKX200合金とZKX600合金の微細組織を比較したところ、ZKX200合金では、2%ひずみを導入した際に活動されたと思われる転位に溶質元素のCaとZnが偏析し、母相にCaとZnよりなる溶質クラスタが形成していることが明らかになった。一方、ZKX600合金では、ひずみ導入時に活動した転位には明確な溶質元素の偏析は見られず、母相にZnよりなるクラスタの形成がみられたことから、大きなBH性は溶質元素の転位芯への偏析と溶質クラスタの形成によりもたらされることが明らかになった。 一方、フェーズフィールドシミュレーションにより、母相の組成がMg-0.3Ca-0.3ZnまたはMg-0.3Ca-0.7Al(at.%)のときの170℃時効処理における溶質元素の転位偏析を解析した。Mg-Ca-Zn合金では、10-100秒の時効処理でCaとZnの偏析量が最大値を示す結果が得られた。一方、Mg-Ca-Al合金では、Caの偏析量は10-100秒の時効処理で最大値を示すのに対し、Alの偏析量は10000-100000秒の時効処理で最大値を示す結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30~31年度は、析出強化や溶質元素のふるまいがBH性に及ぼす影響を明らかにすることを目標として、種々の組成を有する合金のBH性の評価を行い、さらにTEMや3DAPを用いた精緻な微細組織を行った。 BH性の評価の結果、時効硬化を示すMg-Zn-Ca系合金において、強化相としてGuinier Preston (G.P.)ゾーンが析出する希薄合金がMgZn2相の析出する高濃度合金に比べてより大きなBH性を示すことを明らかにすることができた。そして、微細組織解析の結果、溶質クラスタの形成と転位芯への合金元素の偏析の両者によって、BH性が最大化できることが明らかになった。 一方、フェーズフィールドシミュレーションについては、母相がMg-Ca-Zn系またはMg-Ca-Al系のときの溶質元素の転位偏析をモデル化し、解析に必要なギブスエネルギーや溶質元素の拡散係数のパラメータを収集した。これにより、母相組成や時効処理の温度・時間条件が溶質元素の偏析に及ぼす影響を解析することが可能になった。Mg-Ca-Zn合金とMg-Ca-Al合金に対する解析結果から、合金種によって溶質元素の偏析の時間スケールに違いが現れることが明らかになった。 以上のとおり、当初予定していた時効硬化型マグネシウム合金のBH性の評価のほとんどが終了しつつあること、フェーズフィールド法を用いた転位芯への溶質元素の偏析に関するシミュレーションに目途が立ち、合金種の違いによって転位芯への溶質元素の偏析メカニズムに違いがみられる可能性が示唆されるなど、新たな知見が得られつつあることから、研究は順調に進んでいると考えることができる。
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今後の研究の推進方策 |
今後も当初の計画に沿って研究を進める。まず、BH性評価を行う上で、固溶体合金のBH性評価を行えていないことから、Zn、Caの添加量を最小限に抑えた固溶体合金の特性評価を進める。それによって、BH処理による溶質元素の転位芯への偏析の有無に注目しながら、BH性の評価を進める。 次に、フェーズフィールドシミュレーションについては、Mg-Ca-Zn系またはMg-Ca-Al系において、母相組成や時効処理条件が溶質元素の偏析に及ぼす影響を系統的に調査する。また、溶質元素が偏析した転位に外部せん断応力をかけて転位動力学計算を実施することで臨界分解せん断応力の値を算出し、溶質元素の偏析量との関係を調査する。 さらに、平成31年度は、連携研究者の大村と変形挙動のTEM内その場観察を進める。具体的には、TEM内ナノピラー圧縮試験を行い、析出物や溶質元素の偏析した転位と、変形中に導入される転位や双晶との相互作用の様子をその場観察する。その際、底面すべりと引張双晶について観察を行うため、FIB/SEMを用いて圧縮中にそれらの変形モードが活動するよう結晶方位を配向させたナノピラー試料を作製する。ナノピラー試料は、平成30年度中に予備調査として作製方法の検討を進め、すでに試験可能なサイズのピラー上試料を作製することができるようになっていることから、試験を行う試料を選定すれば、すぐに試験を開始することができる。 以上に述べた直接観察とシミュレーションから、析出物や溶質元素が偏析した転位の強化への寄与の大小を明らかにして、Mg合金におけるBH性発現のメカニズムを確立することを目指す。
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