研究課題/領域番号 |
18H01761
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
田口 正美 秋田大学, 理工学研究科, 教授 (90143073)
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研究分担者 |
加藤 純雄 秋田大学, 理工学研究科, 教授 (50233797)
高橋 弘樹 秋田大学, 理工学研究科, 助教 (60632809)
仁野 章弘 秋田大学, 理工学研究科, 准教授 (80451649)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 二酸化炭素 / 地球温暖化 / 電解還元 / リアクター / 付加価値化 |
研究実績の概要 |
CO2濃度の上昇に伴う「地球温暖化」は,洪水や干ばつ,酷暑や台風などの激しい気象現象として顕在化し,世界各地で甚大な 被害を及ぼしている.本研究では,火力発電所や製錬所等の大規模CO2発生源に併設し,回収CO2をその場でCOに変換する「超臨界CO2電解還元リアクター」を開発することを目的とする.すなわち,酸素イオン導電体を固体電解質に用いたリアクターを製造し,CO2発生源のボイラー等からの高温排熱で超臨界状態にしたCO2を導入,直流電力を印加することによってその場で電気化学的にCOに還元する.還元生成物であるCOは,有機化合物などさまざまな化合物の出発原料となるきわめて有用な化学物質である.したがって,このリアクターでは,単にCO2を削減するだけでなく,CO2の高付加価値化が実現できる.本研究では,初めに,酸素イオン導電体として円板型YSZを使用した反応システムを製造し,超臨界CO2電解還元の電流効率に及ぼす反応温度ならびに電極材料(アノード,電解質およびカソード)の影響を明確にした.アノードには固体酸化物形燃料電池でその実績が確認されているLa0.8Sr0.2MnO3を採用した.一方,還元反応特性を左右するカソードにはNi-YSZ,Co-YSZ,Fe-YSZおよびPtを試用して,CO2電解還元試験を実施した.その結果,測定した分極特性データから各カソードの反応過電圧ならびに活性化エネルギーを算出できた.また,質量分析計を用いた生成COの定量分析により,定電流電解における電流効率を決定できた.そして,これらの結果に基づいて最適な電極材料を決定するとともに,円板型YSZに比較して反応サイトを格段に増大させたチューブ型電解還元リアクターの設計に着手した.さらに,本研究ならびに関連研究の知見に基づいて,雑誌論文出版1件,学会発表21件を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①酸素イオン導電体として円板型YSZを使用した反応システムの製造:酸素イオン導電体として円板型YSZを,アノードにはLa0.8Sr0.2MnO3を,還元反応特性を左右するカ ソードにはNi-YSZ,Co-YSZ,Fe-YSZあるいはPtを採用した電解還元システムを製造できた.そして,燃料電池放電試験ならびにCO2電解還元試験の両方から,600~1000℃の高温でシステムが健全に稼働することを確認した.②質量分析計による電解生成物のその場定量分析:電解還元システムの下流に,備品として購入した質量分析計を設置することで,出発原料のCO2と電解還元で生成するCOをその場定量分析することができた.その結果,Faradayの法則に基づくCO2電解還元効率が,700~1000℃の温度範囲で90%程度になることを確認した.このことは,本研究で構想している電解還元システムが有用であることを証明する結果となった.③分極測定によるカソード材料の特性評価:700~1000℃で測定したカソード分極曲線から,電解反応の過電圧ならびに活性化エネルギーを算出できた.Ni-YSZおよびCo-YSZにおけるCO2電解還元の活性化エネルギーが,Fe-YSZのそれに比較するときわめて低くなることが明らかになった.また,新たなカソード材料としてマイエナイトC12A7を採用した反応システムによるCO2電解還元試験からは,C12A7が従来型サーメットカソードに比較してCO2分解の活性化エネルギーを大幅に低減できると推察された.④チューブ型電解還元リアクターの設計:円板型YSZ(反応面 積0.28 cm2)での実験データから,反応サイトを格段に増大させたチューブ型電解還元リアクターに関する重要な設計指針が得られた.⑤学発表および特許申請:以上の研究成果に基づき,学協会での口頭発表と論文投稿を行うことができた.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は,酸素イオン導電体として円板型YSZを使用した反応システムを構成し,超臨界CO2電解還元の電流効率に及ぼす反応温度ならびに電極材料(アノード,電解質およびカソード)の影響を明確にした.すなわち,アノードにはLa0.8Sr0.2MnO3を採用し,還元反応特性を左右するカソードにはNi-YSZ,Co-YSZ,Fe-YSZあるいはPtを試用して,電解還元システムの分極特性試験を実施した.さらに,一定電流でのCO2電解試験 を行い,カソードおよびアノードの下流に設置した質量分析計および酸素センサーによって生成COおよびO2を定量分析した.その結果 ,Ni-YSZおよびCo-YSZにおけるCO2電解還元の活性化エネルギーが,Fe-YSZのそれに比較するときわめて低くなることが明らかになった.また,生成COおよびO2量から計算したCO2電解還元効率が,700~1000℃の温度範囲で90%程度になることを確認した.この値はPtのそれには及ばな いものの,原材料費を考慮するとNi-YSZおよびCo-YSZはきわめて有用なカソード材料であると判断できた.今年度は,カソード材料にNi-YSZを 設定するとともに,円板型YSZに比較して反応サイトを格段に増大させた円筒型YSZ(反応面積200~300 cm2)を用いた「チューブ型電解還元リアクター」を製造し,反応温度を600~900℃に変化させて,CO2削減とCO製造に関わる処理能力,消費電力原単位,エネ ルギー収支などのデータを収集する.また,新たなカソード材料としてマイエナイトC12A7を採用した反応システムによるCO2電解還元試験を実施する.C12A7は特殊なかご状構造を有し,その部分にO2-イオンを取り込むことができる.そのため,従来型サーメットカソードに比較してCO2分解の活性化エネルギーを大幅に低減できると期待される.
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