研究課題/領域番号 |
18H01773
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
下山 裕介 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (30403984)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | フロープロセス / リポソーム / 超臨界二酸化炭素 / マイクロ流路 |
研究実績の概要 |
リポソームの形成技術として,本研究課題では,「プロープロセスでの形成」と「有機溶媒使用量の提言」を目的としており,本年度は,超臨界二酸化炭素を媒体としたマイクロ混合,マイクロ流路で形成されるスラグ流を利用したリポソーム形成プロセスの構築に取り組んだ.具体的には,脂質成分として利用するlecithinを超臨界二酸化炭素中へ溶解させ,swirl型のマイクロ混合システムにより,water-in-supercritical CO2(W/CO2)エマルションを,フローシステムにて形成させた.形成したW/CO2エマルションを,T字型接合部にて,薬物成分であるtimolol maleateを含む水溶液と接触させ,内径0.5 mmのマイクロ流路内においてスラグ流を形成させた.マイクロ流路内でのスラグ流では,W/CO2エマルション中の水滴が,水溶液相へ移動することで脂質膜を形成し,リポソームが作製されることが示唆された.これらの過程は全て,配管 (tube)のみを用いた流通状態で操作可能となり,リポソーム形成におけるフロープロセスが構築された.フロープロセスから流出された水溶液について,動的光散乱法,ならびに透過型電子顕微鏡により,脂質膜を有するリポソームが形成されることが確認された.さらに,構築されたリポソーム形成フロープロセスにおいて,二酸化炭素流量,W/CO2エマルション形成過程における水流量が,形成されるリポソームのサイズ,ならびに薬物カプセル化効率へ及ぼす影響について検証した.その結果,W/CO2エマルションの形成過程における薬物成分であるtimolol maleateを含む水溶液の流量により,形成されるリポソームのサイズ制御が可能であることを見出した.以上より,本年度は,超臨界流体によるスラグ流を利用することで,リポソーム形成のフロープロセスを構築することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の当初の計画では,初年度においては,超臨界二酸化炭素相と水相が形成するスラグ流を利用することで,リポソームを形成することが考えていた.リポソーム形成を実施する上で重要となる,マイクロ混合システムによるW/CO2エマルションの形成を確認する必要がある.本研究では,異相流体の迅速な混合が期待できるswirl型混合システムを適用し,さらには下流部にサファイア製可視窓容器を設置することで,二酸化炭素流量を変化させたW/CO2エマルションの形成が確認できた.また,W/CO2エマルションと水相とのスラグ流におけるリポソーム形成において,リポソームサイズを制御する上で重要な操作因子が,W/CO2エマルションの形成過程における薬物成分であるtimolol maleateを含む水溶液の流量であることを見出し,フロープロセスにおけるリポソームのサイズ制御が可能となった.このように,当初の計画では,swirl型混合システムによるW/CO2エマルションの形成と,W/CO2エマルションと水相とのスラグ流によるリポソーム形成をフロープロセスにおいて可能にすることを目的としていたが,リポソームサイズを制御する上で重要な操作因子が,W/CO2エマルションの形成過程における薬物成分であるtimolol maleateを含む水溶液の流量であることを見出すことで,リポソームサイズの制御が可能となった点は,当初の計画以上に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
超臨界二酸化炭素とマイクロシステムを融合した,W/CO2エマルションの形成と,スラグ流内におけるリポソーム形成が,フロープロセスにおいて可能となった一方,リポソームの実用を考慮した場合,表面機能化技術の確立が必要となる.そのため,これまでに構築したリポソーム形成フロープロセスの下流部に,キトサンを溶解した水溶液との接触部を追加し,リポソーム表面を正帯電化させ,生体癒着性を付与するフロープロセスへ展開する.具体的には,スラグ流で形成されたリポソームを,二酸化炭素を溶解させたキトサン水溶液と接触,混合させることで,リポソーム表面の正帯電化を試みる.ここでは,キトサン水溶液におけるキトサン濃度を変化させることで,リポソーム表面電荷をコントロール可能となることが期待できる一方,キトサン水溶液中におけるリポソーム同士の合一により,リポソームサイズや形状の変化が懸念される.そのため,リポソーム表面の正帯電化に利用するキトサン水溶液の濃度を変化させ,形成されたリポソームの表面電荷との関係を明らかにする.さらには,スラグ流で形成されたリポソームとキトサン水溶液を接触させる,流路ならびに接触部の影響についても検証する.以上より,リポソーム形成に留まらず,実用展開を念頭にしたリポソームへの生体癒着性の付与まで実現するフロープロセスの開発に取り組む予定である.
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