再生医療に大きな進歩をもたらすものとして、厚みのある機能的な組織体を生体外で構築する方法の確立が望まれている。一方、それを阻んでいるのが、個々の細胞のライフラインとなる血管網様構造の構築と、細胞を適切な位置、適切な環境に配置することを同時に可能とする方法の欠如である。2020年度は、毛細血管網の構造の付与を実現するために、インクジェット法によるプリンティング用インクの開発と吐出条件の検討を行った。細胞に対して穏和にプリントされたゲルを溶解するために、ヒアルロニダーゼで分解可能なゼラチン複合インクを調製し、その吐出に関する検討を実施した。その結果、吐出してゲル化させたインクを選択的に分解することができた。しかし、血管構成細胞が自発的に形成する毛細血管網様の構造を得るには至らず、さらなる検討の必要があることが明らかになった。また、新しいインク材料として、シルクナノファイバーをはじめとする天然高分子のナノファイバーを利用し、優れた造形性をもたらすインクの開発を行うと共に、Freeform Reversible Embedding of Suspended Hydrogels (FRESH法)を用いて、細胞への力学的な負荷の小さなゲル構造物を3Dプリントする方法の開発に取り組んだ。その結果、従来の方法ではプリントが困難であった低粘度のシルク水溶液やヒアルロン酸・ゼラチン水溶液をインクとして3次元構造物をプリントすることに成功し、そのために必要な条件を明らかにすることができた。
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