脱炭素化社会の実現に貢献する革新的バイオプロセスの開発を目指して、可逆的脱炭酸酵素を利用した二酸化炭素の固定化による芳香族カルボン酸製造技術の開発研究を推進した。 前年度取得した可逆的フランジカルボン酸脱炭酸酵素 (FDDC) を用いて、バイオマス資源であるフルフラールからのフランジカルボン酸の合成を検討した。FDDCとフルフラール酸化活性を有する酵素HMFOを共発現させた組換え大腸菌を作製し、当該菌体を用いた反応系でフルフラールからフロ酸を介したフランジカルボン酸の合成を検討したところ、予想通りフランジカルボン酸の合成を確認することができた。しかし、合成活性が低く、この原因を探ったところHMFOによる酸化反応で副生する活性酸素に起因することが予想された。そこで、還元剤であるアスコルビン酸を合成反応系に添加したところ、フランジカルボン酸の収量は約20倍向上し、フルフラールからの最大収率10%を達成することに成功した。また、FDDCのように従来とは異なる新規可逆的脱炭酸酵素の探索を可能とする基本システムを大腸菌で整備した。 芳香族化合物への官能基導入技術の開発として、酸化酵素を用いた2-フェニルエタノールへの水酸基導入による各種ポリフェノールの合成を検討した。抗酸化作用、美白効果、逆転写酵素阻害活性が報告されている3-(2-ヒドロキシエチル)カテコール(HEC)の合成では、酸化酵素の導入によって特異的に生成する青色色素がHECの合成を阻害し、培地成分由来のトリプトファンに起因するインジゴ類縁体であることを明らかにした。すなわち、グルコースの添加によってこの阻害が抑制され、トリプトファナーゼ欠損変異を宿主に導入した結果、色素は生成せずHECを合成し、2-フェニルエタノールからの合成収率90%を達成することに成功した。
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