研究課題/領域番号 |
18H01805
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
木下 幸則 秋田大学, 理工学研究科, 講師 (10635501)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 磁気力顕微鏡 / マイクロ波 / ナノ磁性粒 / 磁気共鳴 / マニピュレーション |
研究実績の概要 |
本研究では、磁性ナノ粒子の人工配置状態の力学的構築法と、磁気相互作用を非侵襲かつ定量的に計測可能な分光法を確立し、配置に依存した磁性ナノ粒子間の相互作用の解明を目指す。2019年度は、研究室の新規立ち上げと学内引っ越し作業により、実施項目内容は計画時よりも減少し、活動がやや遅れている。具体的な実施項目は、以下の3点である。 (1)「マイクロ波導波型・磁気力顕微鏡の試作機の光検出系の調整」:2018年度に磁性探針にマイクロ波を導く探針ホルダを作製したが、力検出感度の上がる高周波数・小振幅モードでは、ノイズが非常に大きかった。このため、フォトダイオードおよび電流・電圧変換回路、差動増幅回路の回路設計および機械的固定方法を見直した。具体的には、受動素子を全て高周波対応部品に変えると共に信号パスを短くし、MHz帯でのノイズを低減した。また、フォトダイオードの2次元位置調整を、極小クロスローラーガイドとマイクロメーターヘッド、多重スプリングを用いる機構に変えて、耐直流ドリフト性能を向上させた。 (2)「マニピュレーションに適した磁性ナノ粒子試料の作製法の改良」:2018年度に、ナノ磁性粒子をSi基板上で位置操作(マニピュレーション)するに適した程よい分散で塗布する条件を見出したが、予想以上に磁性粒子と基板間の吸着力が強く、マニピュレーションの歩留まりが非常に悪く、探針の破壊頻度も大きかったため、溶媒を変えると共に塗布法を見直し、歩留まりを向上させた。 (3) 「画像処理による位置ドリフト補正法の開発」:マニピュレーション時に画像からオートで位置ドリフトを補正する画像処理プログラムを開発した。従来のアトムトラッキング法に比べて、使用信号チャネル数が少なく、かつ、位置補正精度を同程度(磁性微粒子の直径の半分以下の精度)に維持する手法を実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は、(1)マイクロ波導波型磁気力顕微鏡の試作機の調整、(2)磁気共鳴力検出を用いた磁気力抽出法の検証、(3)ナノ磁性粒の力学的水平操作条件の絞り込み、の3項目の遂行を計画していた。しかし、2019年度は、研究室の新規立ち上げと学内引っ越し作業、および実験室や学生居室等の整備作業により、(1)はほぼ完了したが、(2)と(3)が部分的に不十分な遂行状態であり、2020年度に持ち越しになるため、やや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は2019年度の課題であり、未遂行の(1)磁気共鳴力を用いた磁気力の抽出法の検証、(2)ナノ磁性粒の力学的操作(マニピュレーション)条件の絞り込みを速やかに終え、(3)ナノ磁性粒の任意パターンとそれらが作る磁気力場の相関解明実験を開始する。 マイクロ波導波磁気力顕微鏡はマイクロ波導波系と光学系の低ノイズ化が済んでいるため、次に、磁性探針の共鳴周波数検出を行う。まず、磁性探針にマイクロ波を導波した状態で、ネットワーク計測器で反射係数S11のピークから探針の強磁性共鳴周波数を割り出す。この電気的計測と合わせて、探針を振動させた状態で、共振周波数シフトのマイクロ波周波数依存カーブのピークからも共鳴状態を検出し相互検証する。次に、マイクロ波に変調を掛けた状態で、マイクロメートサイズの磁区構造を有するハード磁性体で磁気イメージングを行い、磁区構造を反映した磁場勾配の可視化を検証する。 マニピュレーションは、本年度作製したドリフト補正プログラムに本年度新規に作製する「粒子移動を自動で検出する探針の水平操作プログラム」を統合して、効率的に粒子の任意位置への水平移動を実現する。マニピュレーションに適した磁性粒子の孤立状態は、今年度見出した溶媒と分散方法を用いる。探針には磁性体コートSiカンチレバーを用いるが、振幅や励振周波数、探針軌道の調整でも粒子移動確率の向上が難しい場合は、高ばね定数(~2000N/m)の音叉型水晶振動子を用いた手法に切り替える。また、水平移動に加え、探針と磁性粒子間の垂直磁気力を用いた磁性粒子の引き抜き等の垂直操作の可能性も探る。 磁性粒子の人為パターンと磁気力場の相関解明は、2粒子間の磁気力場の可視化から始め、一個ずつ近接粒子の数を増やし、力学的場の変化を見る。更に、一つの粒子に回転操作を加えたときの変化を観測し、粒子の配向との相関を見出すことを狙う。
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