研究課題/領域番号 |
18H01806
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
中林 誠一郎 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (70180346)
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研究分担者 |
小林 成貴 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (40595998)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ナノ気泡 / ZnO(0001) / 酸性エッチング / 塩基性エッチング / 周波数変調原子間力顕微鏡 / 表面原子配列 / 表面水和構造 / 電気化学的水素発生 |
研究実績の概要 |
硫酸酸性水溶液中の白金電極上の水素ガス発生反応において、水素ナノ気泡が電極表面に形成されることは疑いがない。従来の水素電極反応では、この水素ナノ気泡の寄与を全く考慮していない。そこで、水素発生反応における水素ナノ気泡と界面溶媒和構造の寄与を明らかにすることを目的に研究を進めた。アルカリ性水溶液中での水素発生反応は、水分子の解裂を伴う高い活性化障壁を持つ遅い反応である。これは、酸性水溶液中の反応が、プロトンへの1電子注入を端緒とする反応であることと大きな違いがある。近年、遷移金属水酸化物や遷移金属硫化物を白金族電極表面に担持すると、水分子解裂の活性化エネルギーが下がり、水素発生過電圧が大きく減少することが報告されている(Markovic et al. Science 2011)。Markovic は、Pt上に水酸化Niを単原子以下で共存させると、水分子の分解による水素分子発生速度が増大することを示した。この原因を、水分子のHおよびOHを捕獲してH-OH 結合を弱め、の活性化障壁が小さくなると推定した。この成果は、電気化学的エネルギー変換に関し、多大な寄与を果たす可能性がある。令和1年度では、酸化亜鉛単結晶を金属酸化物のモデルとし、酸化亜鉛単結晶ZnO(0001)面への界面水和層および水素ナノ気泡を目指して研究を進めた。ZnO(0001)面を塩酸および、水酸化カリウム水溶液でエッチングし、周波数変調原子間力顕微鏡で高分解観測をおこない、表面の原子分解能観察が可能な条件を探索した。同時に、広領域観測により、表面上でナノ気泡の計測を行った。ZnOを電位規制下で、水素発生電位に保持すると、表面のテラス長の伸長と水素ナノ気泡と思われるガス相を確認することができた。しかしながら、高分解観測で得られる表面原子像と表面原子配列に依存した水和構造の辻褄が合った測定結果は得ることができなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ZnO(0001) Zn 終端面を塩基および酸でエッチングして、その表面の原子間力顕微鏡観察を行った。塩基エッチングは、3M NaOH水溶液で20分間エッチングし、0.1M KCl 水溶液に置換して、原子間力顕微鏡観察を行った。酸性エッチングは、0.1M KCl・0.1M HCl 水溶液で、20分間エッチングを行い、そのまま溶液を置換せず表面観察を行った。それぞれ、開回路状態で表面計測を行った。塩基エッチング条件で、広領域観測を行うと、一辺が100 nmの正三角形のテラスが観測された。この表面の高分解能観測を行うと、2nm 間隔の畝状構造が得られた。この表面で、Z方向の力を計測し、X-Zのマッピングを行うと、Z方向に水和構造と思われる周期パターンが測定された。しかしながら、現在のところ、X方向の変化(結晶の表面方位)に対応した、Z方向の周期構造の変化を再現性良く観測することはできない。酸性エッチングで広領域観測を行うと、3-4 nm間隔で段々畑状にテラスが観測される領域と構造が観測されない領域が混在した。テラス表面を高分解観測しても、原子像は測定できなかった。X-Y平面中に原子像か観測されないにもかかわらず、Z方向の観測結果には、X方向に依存した周期構造が観測された。以上の結果から、開回路状態では、酸性・アルカリ性エッチング条件で、表面原子像と水和構造が、辻褄の合った確定結果を得るには至らなかった。そこで、電位規正条件で表面計測を行ったところ、酸性条件で水素発生開始電位(フラットバンド電位から1.3V負電位)に電極電位を保持すると、開回路時に得られた段々畑構造のテラス間隔が大きく伸長して、かつ、水素ナノ気泡と思われる像が獲られた。この結果は再現性を有する。しかし、電位規制下でも、現在のところ、高分解表面原子像と水和構造の辻褄の合った像を取得することはできていない。
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今後の研究の推進方策 |
Markovic は、Pt(111)状にNiOHを単原子層以下で析出させると、それぞれPtとNiが、水分子のHおよびOHを捕獲して、H-OH 結合を弱め、水分からの水素発生の活性化障壁の減少を報告している(Markovic et al. Science 2011)。令和2年度では、Markovic のPt(111)/NiOHでの水素発生が、3重線上で進行していることの実証を目指す。原子間力顕微鏡で、3重線の原子配列と水和構造の観測を試みる。しかしながら、ZnO(0001) 表面での原子分解能計測の再現性が担保されていない現状を考慮し、以下のバックアッププランも合わせて検討する。Pt(111)/NiOH/ 電解液の3重線上で水素発生が卓越して進むならば、観測される交換電流密度(J0)は、3重線の長さ(L)と相関を持ち、Pt(111) および NiOHの面積(S)とは相関を持たない“はず”である。つまり、J0-S, J0-L をプロットして、どちらが直線関係になるかを調べる。S およびLの制御には、 Pt上のNi UPDの溶解が、2次元1次相転移であることを利用する。電極電位をNi UPD が完了する電位に保持し、電位をUPD溶解電位にステップさせる。この時得られる溶解電流(i(t))は、2次元核発生核成長に伴い、L に比例した値となる。UPDの完全溶解に掛かる時間は、10秒程度である。所定の時間で、電極を開回路状態にすると、Lを規制したPt(111)/Ni 表面ができる。Lを規制した電極を、アルカリ水溶液に移して、J0を測定する。Sはi(t)の積分値であるので、容易に求められる。これで、J0-S, J0-L プロットを行い3重線上の反応を証明する。あわせて、原子間力顕微鏡で3重線を観測して、3重線上のH-OH 結合強度の低減とを明らかにする。
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