研究課題/領域番号 |
18H01807
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
塩足 亮隼 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 助教 (50755717)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 表面科学 / 表面合成 / 原子間力顕微鏡 / 走査トンネル顕微鏡 / ナノ炭素材料 |
研究実績の概要 |
単一の分子に、機械部品や電子部品のような“機能”を持たせ、働かせることは、合成化学における究極のゴールの一つである。分子の構造や機能が基板や隣接分子にどのように影響を受けるかを評価することが、分子デバイス・分子マシンの実現のために不可欠な過程である。本研究では、従来にないナノスケールの分子ポリマーを基板上に作製し、その基板上で狙った機能を発現させ、単分子レベルで観測・制御することを目的としている。 本年度は、機能的ポリマーの候補として、特異的な構造を持つグラフェンナノリボン(GNR)の表面合成を試みた。 表面合成によってGNRが得られる既知の前駆体分子(リボン前駆体と呼ぶ)と別の有機分子(新前駆体と呼ぶ)を適切な比率で配分し、それらを金属基板上に蒸着・加熱することによって、新規なリボン分子を作製することを狙った。Au(111)基板にリボン前駆体と少量の新前駆体を共吸着させ、加熱することで、新前駆体由来の特殊な構造を有するGNRが得られた。さらに、リボン前駆体だけを用いた場合でも、蒸着量などの条件を調整することで、通常とな異なる構造の生成物が得られることが判明した。これらの生成物の構造は走査トンネル顕微鏡では特定することが難しく、分子内部の炭素骨格を画像化できる超高空間分解能の原子間力顕微鏡(AFM)によって同定することができた。 また、小さい分子から構成される分子マシンの機能発現と評価を行った。具体的には、金属上の一酸化窒素(NO)単分子を探針で押し倒す「トグルスイッチ」動作を実現させ、その時に働く極めて微小な力をAFMで計測し、その動作機構を解明することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
超高空間分解能AFMによる構造評価技術を確立させることで、リボン前駆体と新前駆体から成る新しい炭素骨格構造体の発見に成功した。今後、その構造体の作製条件を確立し、その物性を評価することが必要である。 また、リボン前駆体単独から成る新規な生成物を発見し、その生成条件を調べた。これは、新規なナノ炭素材料の創成、あるいは、よりwell-definedなナノリボンや分子ポリマーの表面合成のための重要な知見である。今後、得られた生成物の構造と物性を詳細に調べることで、表面合成反応のメカニズムを単原子スケールで明らかにできると期待される。 また、分子ポリマーの機能性の発現・計測に先立って、まず最も簡単な分子系(2原子分子であるNO)による単分子スイッチを実現し、その動作原理を原子レベルで解明した。これは、表面合成で作製する新規な分子ポリマーにおいても、その機能を発現・評価できることが示唆される重要な結果である。 以上より、(1)新しい構造を含むGNRの合成・評価、(2)単分子スイッチの実現と機構解明という2点から、当初の予定以上の進捗と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
基本的に当初の計画どおり研究を遂行する。具体的には、別の新前駆体を使用した機能的リボン分子の合成を試みることに加えて、作製したリボン分子の物性を計測し、その機能の発現・評価を試みる。 それに加えて、本年度の研究により、リボン前駆体単独から成る新規な生成物の作製に成功した。そのため、新規生成物を得るための表面合成反応の機構解明や、高収率化のための最適な条件探索を今後行う。 また、小さい分子から構成される分子スイッチ系については、理論計算を含めた動作原理の解明を進め、より大きなリボン分子における機能評価のための知見を集める。
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