研究課題
単一の分子に、機械部品や電子部品のような機能を持たせ、働かせることは、合成化学における究極のゴールの一つである。分子の構造や機能が基板や隣接分子にどのように影響を受けるかを評価することが、分子デバイス・分子マシンの実現のために不可欠な過程である。本研究では、従来にないナノスケールの分子ポリマーを基板上に作製し、その基板上で狙った機能を発現させ、単分子レベルで観測・制御することを目的としている。機能的ポリマーの候補として、特異的な構造を持つグラフェンナノリボン(GNR)の表面合成を実施している。前年度までに、金基板上に2種の有機分子を共吸着(ヘテロアッセンブリー)させて加熱することで新規なリボン分子を作製した。材料の1つとして、表面合成によってGNRが得られることが知られている分子(リボン前駆体)を用いた。このリボン前駆体だけを用いた場合でも、蒸着量などの条件に依って生成物やリボンの平均長さや欠陥の量が変わるという問題を発見した。先述のヘテロアッセンブリー法によって高収率で新規ポリマーを作製するためには、リボン前駆体から高品質のGNRを得る必要がある。そのため当該年度は、リボン前駆体から得られるGNRの質を定量的に評価し、最適な作製条件を決定した。リボン前駆体を金基板に蒸着する量を変え、生成されるGNRの構造を走査トンネル顕微鏡および原子間力顕微鏡による高空間分解能観察で評価した。生成物の質の定量評価には、高分子化学において用いられる重合度と多分散指数(PDI)を用いた。それにより、蒸着量が多い場合は長さのばらつきが最も少なく高重合度のGNRが得られる一方、蒸着量が少ない場合は通常のGNRとは異なる接合形式のナノグラフェンが支配的となることを示した。また、反応中間体を観察することで、分子間相互作用の有無がこの蒸着量依存性を生じさせていることを解明した。
2: おおむね順調に進展している
リボン前駆体についての詳細な測定・解析によって、高収率・高PDIでヘテロアッセンブリーポリマーを表面合成するために最適な分子吸着量を明らかにすることができた。この高品質化のためのパラメータは、将来的に表面合成したポリマーを分子デバイスとして用いるために重要な知見であり、この点において大きな進展があったと評価した。一方、ヘテロアッセンブリーによって生成する新規ポリマー分子についての研究については、当該年度は再現性の検証は行ったものの、詳細な構造決定・機能評価については未完了であり、次年度の課題として残った。
分子ポリマーの機能性の発現・制御に向けて、ヘテロアッセンブリー法により得られたポリマーをはじめとする新規ポリマー物質の構造決定と物性評価を進める。当該年度までの研究により、金属表面上に吸着したNO分子について、原子間力顕微鏡を用いて単分子スイッチとして動作することを明らかにし、その機構を解明している。この知見を、より大きなリボン分子に適応することで機能評価を円滑に行うことができると予測している。また、ヘテロアッセンブリー法とは別の新規炭素物質の計測も進める。具体的には、リボン前駆体分子をAu(111)表面とは異なる金属基板上に蒸着して加熱することで、Au表面とは異なるナノグラフェンの生成を確認しており、この反応過程の解明と生成物の機能評価を行う。
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