研究課題/領域番号 |
18H01811
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
平山 祥郎 東北大学, 理学研究科, 教授 (20393754)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | メゾスコピック系 / 量子ポイントコンタクト / 電子相関 |
研究実績の概要 |
GaAs系で制御性に優れたトリプルゲート量子ポイントコンタクト(QPC)を作製することに成功し、その基本的な伝導特性を探るとともに、どこまで低磁場でも抵抗検出NMR(RDNMR)が測定可能かを調べた。特に、高次のランダウ準位を用いると1T以下の低磁場でもRDNMRが測定できることが確認でき、さらに、バックゲートやセンターゲートによる精密な電子密度制御を利用してポンプ・プローブ法を行うとスピン分離が生じないような測定条件でRDNMRが実現できることを確認した。この成果は、PRB(RC)(2018)に出版されたが、この成果を受けてQPCの0.7×2e2/h構造の究明にRDNMRで挑戦することが可能となった。さらに、QPCで電子が感じる歪をRDNMRの四重極分離から検出する可能性を検討し、ゲートバイアスによりチャンネルの位置をずらした場合に一次元チャネルが感じる歪が大きく変化すること、また変化をゲート電圧で制御できることを世界ではじめて確認した。また、マヨラナフェルミオンなどとの関連から関心を集めているInSb系のQPCについて、GaAs系のようにショットキーゲートによる制御ができないことから、トレンチゲート型のQPCを試み、量子化コンダクタンスが得られることをAPL(2018)に発表した。ただし、パラレルチャネルの存在が示されており、今後この起源を明確にする必要がある。最後に、走査ナノスケールゲートを用いたイメージングについても大きな進展があり、RDNMR信号のイメージングに成功した(Nat.Comm.(2018)に発表)。2018年度までの進展で、走査ゲート顕微鏡の性能は素晴らしいものになっており、今後GaAs系やInSb系のQPCと組み合わせて、その輸送特性をミクロなレベルで明らかにすることも目指す。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GaAs系で制御性に優れたトリプルゲート量子ポイントコンタクト(QPC)を作製することに成功し、1T以下の低磁場で抵抗検出NMR(RDNMR)が測定できることを確認できたことは、0.7×2e2/h構造のRDNMRによる究明に向けた大きな前進である。InSb系のトレンチゲート型QPCで、まだ十分とは言えないが量子化コンダクタンスが得られたこと、走査ゲート顕微鏡を利用したミクロスコピックゲート制御、イメージングがRDNMRのイメージングにまで拡張できたこともこれまでグループで積み上げてきた技術の高さを示す重要な成果である。これらが論文として、Nat.Comm.,PRB(Rapid Comm.),APLなどそれなりに高いレベルのジャーナルに出版され国際会議の招待講演も順調であることも、研究の進捗が順調で外部からも高く評価されていることを示している。さらに、論文発表はこれからであるが、QPCで電子が感じる歪をRDNMRの四重極分離から検出する可能性を検討し、ゲートバイアスによりチャンネルの位置をずらした場合に一次元チャネルが感じる歪が大きく変化すること、また変化をゲート電圧で制御できることを確認したことも大きな成果である。この成果により、世界ではじめて半導体中に埋め込まれた電子チャネルにおいて、電子が感じる歪を制御した形で伝導特性をきちんと議論できる可能性が出てきた。 以上述べたように、高いレベルの成果が予定通りに得られていることから、「(2)おおむね順調に進展している。」と自己評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
QPCのRDNMRについて1T以下という低磁場でもRDNMRが測定できることが確認でき、さらに、バックゲートやセンターゲートによる精密な電子密度制御を利用してポンプ・プローブ法を行うとスピン分離が生じないような測定条件でRDNMRが実現できることを利用して、QPCの0.7 (or 0.5) × 2e2/hの特性と一次元チャンネルの電子スピン偏極がどのように関連するかの測定に着手する。具体的にはRDNMRのT1時間、ナイトシフトを0.7近傍で測定することに挑戦し、さらに磁場を大きくしてスピン分離が強くなるにつれ、どのような変化が生じるかを探求する。さらに、これまでの実験の成功を受けて、QPCにおけるT2時間の測定にも入る。電子が感じる歪をRDNMRの四重極分離から検出する研究では、2018年度にゲートバイアスによりチャンネルの位置をずらした場合に一次元チャネルが感じる歪が大きく変化すること、また変化をゲート電圧で制御できることが確認されたことを受けて、きちんとした解析を進めて論文化を急ぐとともに、0.7構造を含むQPCの輸送特性に歪が与える影響の探索に入る。また、その基礎となるトリプルゲートQPCで実際に狭窄部分のポテンシャルがどのようになっており、不純物による系の乱れがどのようにポテンシャルを変調し、それが実測された輸送特性とどのように関係するかを理論、実験の両面から詰める。また、GaAs系以外にInSb系のQPCについても、トレンチゲートの性質を明瞭にし、さらに、絶縁膜と組み合わせたトリプルゲート化の可能性を追究する。最後に、最近顕著な成果が出てきている走査ナノスケールゲートを用いたイメージングをGaAsやInSbのQPCに応用して、QPCにおける輸送特性や核スピン偏極をミクロなスケールで明らかにすることにも研究を拡張する。
|