研究課題
本研究は,2層グラフェン(BLGr)に垂直電場を印加してバンドギャップを形成することで電界閉じ込め量子構造を実現し,バレースピンに依存した量子伝導現象の観測と理解を目的としている。初年度は,量子ポイントコンタクト(QPC)構造の実現に不可欠な高移動度化を目的とし,窒化ホウ素(BN)/グラフェン/BNの3層スタック構造に対するエッジコンタクト技術の確立を目指して研究を進めた。研究室に既存の高周波プラズマ発生装置に対して,CHF3/O2ガスを導入し,PMMAをマスクとした反応性イオンエッチングができるように改良を行った。圧力と流量を様々な条件で調整し,BNとSiO2のエッチングレートを算出し,接触抵抗値の低減を目指した。その結果,室温で3000cm^2/Vsの移動度と,最小の接触抵抗率としては400Ωμmが得られたが,時としてコンタクトが取れないこともあり,不安定性を残す結果となった。その原因としては,PMMAレジストの残渣による汚染や,プラズマエッチング時の副生成物が取り切れていないことが挙げられる。これに対しては,ガスの供給経路の見直しや,エッチング時のガス圧の調整を試み,改善を図っている。2層グラフェンにおけるQPC構造については,試作を行い,2e^2/hを単位とした伝導度の量子化現象の観測に成功した。しかし,その試料ではチャネルが完全にピンチオフされる前にゲート下の伝導が回復してしまい,ピンチオフさせることができなかった。これはスプリットゲート間隔が100nmであったため,細線中央部での垂直電場が十分でないことが考えられ,電界シミュレーションを行った結果,幅50nm程度のスプリットゲートの作製が必要であることが分かった。そのため,昨年度のうちに50nmプロセスに対する電子線露光条件の最適化を図ってきた。
2: おおむね順調に進展している
昨年度のうちに,反応性プラズマエッチング装置を作製し,エッチング条件の最適化を行った。既存のプラズマエッチング装置にフロン系プロセスガスを導入できるように流量調節機構,ガス圧測定機構,除害装置の設計や選定を行い,9月末までにプラズマエッチングを開始した。開始後まもなく,SiO2層とBN層に対してエッチングが行われていることは確認できたものの,コンタクト特性が安定せず,時には全く電流が流せないといった試料も確認された。その原因を探っていくと,エッチングされた領域に反応生成物である炭化物の大量な残渣の存在が確認され,それがエッチングレートに影響を及ぼすとともに,グラフェンへのコンタクト特性の不安定性の原因となっていることがわかってきた。そのため,チャンバー内へのガス供給経路の見直しとシャワーヘッド形状の改良,および電極間隔の変更等を進めた。その結果,時間に対して線形に依存するエッチングレートが観測されるようになり,またコンタクト特性も1kΩμm以下になってきた。それでもまだ接触抵抗率のばらつきがあることから,更なる最適化を図っていく必要がある。このように,初年度のうちにプラズマエッチングの装置とエッチング条件を見つけることができ,次年度からの本格的な試料作製と測定につなげることができたことから,研究は概ね順調に進んでいるものと考える。一方で,研究室内での実働素子の作製が困難であったため,共同研究をしている韓国・成均館大学のキム ギルホ教授の研究室に学生と共に滞在し,プロセス技術の調査と習得,およびQPC試料の作製を行った。その試料を持ち帰り,研究室内で低温磁気伝導測定を行ったところ,伝導度の量子化現象の観測までに至った。完全にピンチオフすることはできなかったものの,2e^2/hの量子化単位の観測等,重要な結果が得られており,こちらに関しても研究は概ね順調に進んでいるものと考える。
①グラフェンに対するエッジコンタクト技術の最適化を進める。昨年度改良を施した高周波プラズマエッチング装置を用いて,BN/グラフェン/BNの3層スタックに対してCHF3/O2ガスによるプラズマエッチングを行ってきたが,現状で問題となっているPMMAレジストの残渣による汚染と安定しない接触抵抗値の問題を解決し,高移動度化と低接触抵抗化をめざす。タイプⅠ,タイプⅡのどちらのエッジコンタクトでも安定した接触特性が得られるように,技術の確立を進める。②2層グラフェンにおけるQPC構造形成技術の確立と量子化伝導度の観測を行う。昨年度の結果を踏まえ,スプリットゲート間隔を50nm程度まで絞ることで,完全なピンチオフ状態の実現し,1段目からの量子化伝導度の観測を行う。③高精細なグラフェンナノリボンの形成と量子閉じ込め構造の作製を行う。電界閉じ込めによって形成された量子閉じ込め構造はエッジが滑らかであることに特徴があるが,その相補的な構造として,グラフェンナノリボンの利用が挙げられる。現在,Agナノワイヤーを用いたシャドウマスクによる高精細ナノリボンの形成を進めており,ナノリボンに対するトップゲート構造とサイドゲート構造の2種類の量子閉じ込め構造の形成による量子化伝導度の観測をめざす。④局所測定技術を用いたバレー・スピン偏極電流軌道の観測を行う。原子間力顕微鏡(AFM)探針をゲート電極として利用した走査ゲート顕微法や局所カー効果観察を用いて,QPCを通過する電子流においてバレー選択効果が生じているかどうかについて検証を行う。まずは自発的に反転対称性が破れているといわれるMoS2などの遷移金属ダイカルコゲナイド試料も含めて観測を進める。
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