研究課題
これまで我々の研究で行ってきた2層グラフェン(BLG)に対して電界効果によって閉じ込められたチャネル間隔の狭い(< 100 nm)量子ポイントコンタクト(QPC)では,2e^2/hを単位とした伝導度の量子化現象が観測されてきてたことから,これがBLG-QPCでの普遍性のある現象であると結論付け,一連の結果をまとめて論文投稿を行った。また,グラファイトで作製したスプリットゲートを有するBLG-QPC構造を作製したところ,グラファイト上のPMMA残渣による帯電効果によってQPCの伝導度が完全にゼロとなるピンチオフを達成することに成功した。この構造においても,伝導度の量子化現象は2e^2/hを単位としていることがわかり,普遍性が確認された。この結果は2021年春の日本物理学会にて報告した。六方晶窒化ホウ素(hBN)を利用したファンデルワールス・トランスファー技術の向上から単層グラフェン(MLG)とhBN剥片とを整合積層したMLG/hBN構造を作製した。この構造においては,通常のディラックポイント(DP)に加え,第2DPにおける2つの抵抗ピークが観測されたことから,グラフェンとhBNの格子定数のわずかな違いからモアレ構造ができていることが確認された。このような積層構造に対して0.6μm×0.6μmのキャビティサイズを有する開放系量子ドットをプラズマエッチングによって作製し,その極低温での磁気輸送現象の観測を行った。その結果,量子ドット内をバリスティックに伝導する電子波の様子の観測に成功した。この成果はAPS March Meetingにて報告した。以上のように,グラフェンを用いたQPCなどの量子構造の研究は順調に進展してきており,それに並行してツイスト型BLGおよび遷移金属ダイカルコゲナイドを用いた量子構造の研究も進めている。
2: おおむね順調に進展している
これまで我々の研究で確認された2層グラフェン(BLG)に対して電界効果によって閉じ込められた量子ポイントコンタクト(QPC)において2e^2/hを単位とした伝導度の量子化現象を観測してきた。さらに,グローバルなバックゲートを第3のゲートとして垂直電場を増強した構造においても2e^2/hを単位とした伝導度の量子化現象が観測されたことから,チャネル間隔の狭い(< 100 nm)BLG-QPCでの普遍性のある現象であると結論付け,一連の結果をまとめて論文投稿を行った。また,グラファイトで作製したスプリットゲートを有するBLG-QPC構造を作製したところ,グラファイト上のPMMA残渣による帯電効果によってQPCの伝導度が完全にゼロとなるピンチオフを達成することに成功した。この構造においても,伝導度の量子化現象は2e^2/hを単位としていることがわかり,普遍性が確認された。六方晶窒化ホウ素(hBN)を利用したファンデルワールス・トランスファー技術の向上からグラフェンの高移動度化技術が確立されたことから,単層グラフェン(MLG)とhBN剥片とを整合積層したMLG/ hBN構造を作製した。この構造の特徴はグラフェンとhBNの格子定数のわずかな違いからモアレ長周期構造が生じ,通常のディラックポイント(DP)に加え,第2DPにおける2つの抵抗ピークが観測されることが知られているが,本研究でも同様の3本の抵抗ピークが観測され,意図したモアレ構造ができていることが確認された。このような積層構造に対して0.6μm×0.6μmのキャビティサイズを有する開放系量子ドットをエッチングによって作製し,その極低温での磁気輸送現象の観測を行った。その結果,量子ドット内をバリスティックに伝導する電子波の様子の観測に成功した。以上のように,グラフェンを用いたQPCなどの量子構造の研究は順調に進展している。
これまで我々の研究を進めてきた2層グラフェンに対する電界効果によって閉じ込められた量子ポイントコンタクト(QPC)の研究に目途が立ったため,研究対象をツイスト型2層グラフェン(TwBLG)と遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)における量子閉じ込め構造形成の研究へとシフトしていくことを計画している。①TwBLGはツイストの角度によってバンド構造が変化し,マジックアングルとよばれる1.1°付近ではモアレ格子に対する半充填においてMott絶縁体状態や,その近傍で超伝導状態といった多彩な電子状態が現れる。また,モアレ長周期構造に起因したエネルギーギャップを利用することで絶縁化することで,これにより垂直電場を印加することなくQPC等の量子閉じ込め構造の形成が可能となる。これにより超伝導状態の1次元閉じ込めや強相関な量子細線といった多彩な伝導様式での量子閉じ込め構造の形成が可能となると期待する。②TMDCではグラフェン程は移動度が高くないものの,対称性の破れからバンドギャップを有するため電界効果トランジスターとしての利用においてon/off比が高く,また六方晶窒化ホウ素(hBN)の利用により高性能なFET構造の形成が可能となってきた。WSe2はグラフェンと異なりスピン軌道相互作用が強い系であることから,2層グラフェンと異なる量子化伝導度の発現が期待される。また,これまで垂直電場印加が必要であったため2層グラフェン系では実現できなかったが,TMDCを用いることで局所測定技術を用いたバレー・スピン偏極電流軌道の観測が実現できると期待する。原子間力顕微鏡AFM)探針をゲート電極として利用した走査ゲート顕微法や局所カー効果観察を用いて,QPCを通過する電子流においてバレー選択効果が生じているかどうかについて検証を行う。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
Physical Review Letters
巻: 126 ページ: 086802-1-6
10.1103/PhysRevLett.126.086802
Nanotechnology
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10.1088/1361-6528/abeadb
https://adv.chiba-u.jp/nano/qnd/index.html