研究課題/領域番号 |
18H01816
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
山本 貴博 東京理科大学, 工学部教養, 准教授 (30408695)
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研究分担者 |
柳 和宏 首都大学東京, 理学研究科, 教授 (30415757)
藤ヶ谷 剛彦 九州大学, 工学研究院, 教授 (30444863)
野々口 斐之 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (50610656)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 熱電変換 |
研究実績の概要 |
本研究では, (1) 1mV/Kの巨大ゼーベック係数の実現,(2) 大気中で安定なn型CNTの実現,(3) 1W/mKの低熱伝導率の実現を果たし,CNTの熱電性能を実用レベルまで高めることを目的とする。さらに,(1)-(3)の研究を通して,(4) CNT熱電物性の学理を深化させ,精密科学に基づくCNT熱電技術の基盤構築を目指す。 課題(1)においては、熱電線形応答理論によってCNTの巨大ゼーベックの実現可能性を理論的に示した。理論結果に基づき、半導体性CNT膜の調製条件を詳細に検討し、転写法にて再現性よく熱電輸送を評価できるようになり、巨大なゼーベック係数を見出した。また定電位クロノアンペロメトリー法を超分子ドーピングに導入し、ドーピングプロセスの定量化ならびにホストドーパントの性能評価を達成した。 課題(2)と課題(3)については、CNTシートの熱電変換効率の向上を目指して、CNTの化学修飾によるパワーファクターへの影響を理論的に調査し、さらに、化学修飾による熱伝導率低減と独自の半導体性CNT抽出技術によるゼーベック係数向上に取り組む。これらの実験を自立膜で行うのが特長で、より実用に近い材料における学理の確立を目指す。それぞれの熱電パラメータは密接に連動して変調するため、熱電変換効率の評価まで行った。また、独自に見出した大気下安定n型CNTの安定化メカニズムの解明も行った。 課題(4)については、CNTの電子状態を1次元ディラック電子によって記述することで、CNTの両極性熱電効果とCNT薄膜のモルフォロジー効果を線形応答理論によって理論的に調査した。こんも理論結果に基づき、実験では系統的に電子構造の異なる単層CNTを用意し、各々の電気伝導率とゼーベック係数のフェルミレベル依存性を実験的に検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題(1)のゼーベック係数1mV/Kに対し、高品質な半導体性カーボンナノチューブ膜の調製により、空気酸化ドープ条件にて0.2mV/Kから0.7mV/Kまでのゼーベック係数を見出した。 課題(2)に対しては、クラウンエーテルを用いたn型ドーピングの定量化を定電位クロノアンペロメトリーにより実現し、環拡張クラウンエーテルを用いることで安定性とドーピング効率の改善を見出した。 課題(3)に対しては、CNTシートの化学修飾においては、ベンゼンジアゾニウム塩による化学修飾を行い、修飾度を増加させると熱伝導度を低減できることを見出した。一方でゼーベック係数が低下することからZTはほぼ変化がないという興味深い挙動を得た。一方、フラビン誘導体による半導体性CNTの抽出においては従来の手法より抽出剤の除去が容易で、電気伝導を落とすことなくゼーベック係数の向上が得られ、ZTも大幅に向上させることに成功した。 課題(4)については、高純度単一カイラリティ半導体型単層カーボンナノチューブに対して、金属型ナノチューブを混合させていき、電気伝導率と熱起電力との関係を実験的に明らかにした。金属型の含有量を系統的に変化させることで緩和時間を変化するという理論予測と良い一致が見られることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
CNTシートの化学修飾においては、電気伝導度が大幅に増加していたことから、ホールドープの影響が考えられる。DMBIによる電子ドープで電気伝導度を制御しゼーベック係数を向上させることでZT値も向上させられると期待できる。また、半導体性抽出においても抽出剤フリーの半導体CNTシートを作製し、ドープレベルの制御により更なるZT向上に挑戦する。同時にn型安定化メカニズムの解明にも取り組む。 見出した巨大なゼーベック係数は原料ソースに大きく依存することが分かっており、引き続き起源の解明に取り組む。n型ドーピングについては、高価なクラウンエーテルを用いていることから、今後、性能は据え置き、価格を1/10以下に低減する手法の開発を目指す。 高純度半導体型単層カーボンナノチューブおよび金属型単層カーボンナノチューブが不純物として含まれる状況における電気伝導率と熱起電力との関係は、Constant-τ近似の範囲で定性的に説明できることが明らかとなった。さらに、熱起電力の温度依存性には、顕著なフェルミレベル依存性が見られることを理論的に予想することに成功したので、2019年度は特にフェルミレベルと温度依存性の関係解明に重点をおいて研究を推進し、一次元半導体ネットワーク系における熱電物性の学理の深化を行う。
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